カウンターの奥にある大きなモニターではサッカーの試合が流れていた。バーの客たちは応援している国のユニフォームを着て、その画面を見ながら酒を飲んでいた。カウンターに立つ慶介はサッカーの試合を見ながらも、客の注文に応じて酒やアテを出す。店は文字通り目が回るような忙しさだったが、とても充実した時間を過ごしていた。

夢をかなえたスポーツバー

このスポーツバーは慶介の念願だった。昔から酒とスポーツ観戦が好きでいろいろなスポーツバーに出入りしていた慶介はいつか自分の店を持ちたいと思い、営業の仕事を頑張ってきた。そして40歳の節目に貯金と退職金をつぎ込み、夢を叶えた。

最初の頃は客足がまばらだったが、徐々に地元の人間に知られるようになった。それでも経営的には火の車だったが、ワールドカップが始まってからは一気に客が増えるようになった。

日本代表の試合はもちろん、海外の強豪同士の試合でも店は満席になった。近くのマンションに住む外国人客や商店街で働く若者、仕事帰りの会社員たちが次々と訪れた。ゴールが決まるたびに店内は揺れるような歓声に包まれた。全員で肩を組んだり、乾杯をしたりして店の中に活気が充満していた。いろんな人種や年齢層の人たちが同じものを見て盛り上がっている姿を見るのはとても幸せだった。慶介は心からバーを開いて良かったなと思える日々を過ごしていた。

その日も、店の営業が終わったのは明け方だった。

大型モニターに映っていた中継が終了し、客たちは名残惜しそうにグラスを空けていった。興奮が冷め切らないのか店を出てからも何人かは外で試合の感想を言い合っていた。慶介は帰っていく客たちに頭を下げながら空いたグラスや皿を片付けていった。時計を見ると、もう朝の6時を回っていた。店の中には酒の臭いが残っている。床には紙ナプキンが落ち、テーブルの上には空のグラスがいくつも並んでいた。慶介はあくびをした。