年金でスナックに通う72歳男性

高柳敏雄は千葉県市川市に住む72歳。市役所の技術系職員として長く勤務したのち、定年退職していた。しばらくは友人が経営する建設会社に再雇用されていたが、その会社を退職して以降は特に働かず年金暮らしをしている。

結婚もせず長年独身でやってきたので、老後は寂しい生活だった。

その寂しさを埋めてくれるのが、週一回だけ通っていたとあるカラオケスナックだった。

駅前商店街の一角を占めるその店では、シニア世代向けに、平日限定ではあるが3000円で飲み放題、歌い放題のプランを提供していた。そのくらいの金額なら、年金暮らしでも毎週スナックで遊ぶことができた。

スナックに通う男性客は、世代的にも敏雄と近い人が多く、自然、話も盛り上がった。

現役時代には盛り場で飲むことなどほとんどなかった敏雄だったが、いまではすっかりそのスナックの常連客になっていた。

 

「こんちは~。おや、今日は人が少ないねえ」

スナック「シフォン」のドアをくぐると、高柳敏雄はがっかりしてそう言った。

時刻は火曜日の夕方16時だった。お酒を飲むには少々早すぎるが、敏雄たちのような悠々自適の身分なら、何時から飲もうが関係ない。

それに、この「シフォン」では65歳以上向けに、夕方16時以降は時間無制限で飲み放題になるプランを提供している。平日の16時ぐらいになると敏雄をはじめ年金暮らしの常連客がぽつぽつ集まってきて、カラオケを歌ったり、話に花を咲かせる光景が日常だった。