「ひどい悪口ばっかり書かれてるのよ」

ママがおずおずと差し出したのは、自分で使っているスマホだった。

「これ、ママのスマホだろ? これがどうかしたのか?」

即座にそう問う敏雄に、ママは言った。

「ちょっと、見てよ、これ……」

ママは慣れた手つきでスマホを操作し、地図アプリを立ち上げると、スナック「シフォン」の口コミを表示する。

「うちの店の口コミに、ひどい悪口ばっかり書かれてるのよ」

敏雄は胸ポケットから老眼鏡を取り出してかけると、ママのスマホに目をこらした。

そこにはこんな文言がならんでいた。

 

「年金暮らしの老人がバカ騒ぎしている店」

「税金で食わせてもらっている社会のお荷物」

「客のマナーが最悪で、店の前はいつもゴミだらけ」

「真っ昼間からカラオケの爆音を垂れ流している」……。

 

「な、なんじゃ、こりゃあ……」

敏雄は目を白黒させた。そこに並んでいる悪口は、いずれも事実とは異なる内容ばかりだった。

まず、「シフォン」の前がゴミだらけだったことはない。綺麗好きのママが毎日掃除をしているからだ。それにお店のルールで、昼間のカラオケは禁止していたので、『昼間から爆音』も絶対にウソだった。

とはいえ、思い当たるところもあった。年金暮らしの我々が遊んでいる所を若い人達が見れば、あまりいい気はしないのかもしれない。

もと公務員の敏雄は、年金の面では恵まれていると感じてもいた。あくせく働き税金を収めている若者の気持ちもわかる。

「近所に住んでいる若い人で、この店を見て、イライラしている奴がいるのかもしれないわね。その人があることないこと、ネットに垂れ流しているんでしょ」

「けど、俺なんか、週1回、3000円払うだけなのに、『税金で贅沢している』という風に書かれるのはちょっと癪だなあ……。年金をもらえているのも、俺たちが長年保険料を払い続けたからだし」

「そんなこと、あたしに言われても困るわよ」ママが横目で敏雄をにらんだ。

「一番困っているのはあたしよ。『この店に来るのは、素行の悪い老人』のように書かれちゃって、常連のみんなは来づらくなってるみたい。ほんとやんなっちゃう。こんの調子で客足が遠のけば、商売あがったりだわ。そのうちお店をたたむしかなくなるかも……」

本当に悩んでいるのだろう、ママはそう言うと、長い長いため息をついた。

その様子を見ていた敏雄は、心中、憤りを覚えていた。

――この店は俺にとってはかけがえのない居場所なんだ。それを奪おうとする奴は許せない。デマを流しているのがどこのどいつか知らないが、見つけたらただじゃおかないぞ……。

●スナックの悪口を書き込んでいるのは一体誰だったのでしょうか? 後編:【「年金暮らしのジジイが偉そうに!」詰め寄る72歳男性に逆ギレし、ゴミをまき散らして逃げた「嫌がらせ犯人」の正体】にて詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。