<前編のあらすじ>

絵美と夫・義之との関係は5年前に発覚した義之の不倫以降冷え切っていた。娘・美咲を育てるために離婚を先延ばしにし、絵美はいつかくる離婚後のために生活基盤を整えていた。

ある夜、保管していた離婚届を取り出した絵美は、そろそろ義之と別れる時だと決意を固める。だが、離婚を進める前に、美咲のことも含めて話しておかなければならない相手がいた。それが母・敦子だった。

絵美は敦子に離婚の意思を打ち明ける。反対される覚悟だったが、敦子は意外にも受け入れ、さらに自分も夫と別れようと思っていると告白する。絵美は、想像もしていなかった母の言葉に衝撃を受けるのだった。

●前編【「そろそろもういいだろう」不倫夫との結婚生活に終止符…母への報告で返ってきた衝撃告白

娘が知らなかった母の限界

「離婚、するの……?」

絵美はつっかえながらも敦子に質問をした。敦子は申し訳なさそうに笑ってうなずいた。

「まだ何も決まってるわけじゃないのよ。ただ私の中でそう思ってるってだけね」

「……何で?」

素直な疑問が口から出てきた。絵美は2人の仲が悪いと思ったことは一度もなかった。ケンカをしているところも見たことがない。

「……そうよね。びっくりするよね」

敦子はそう言ってコーヒーカップに視線を落とした。

「お父さんは絵美にはいい父親だったと思う。運動会にも来てくれたし、誕生日にはケーキも買ってきてくれた。あなたが熱を出したときは仕事を早く切り上げて帰ってきたこともあったし」

敦子の言葉に絵美はうなずいた。

「でもね、私にとっては少し違ったのよ。昔からお父さんは家のことは私がやって当然だって思っていた。それだけならいいんだけど、食事の時間が遅くなったら機嫌も悪くなるし、味の文句だって平気で言ってきた。私が風邪を引いても一切心配してくれなかった。それどころかしっかりしろって怒られたくらいよ」

そうだったの? と聞き返そうとしたが、その言葉が喉につかえた。

父が敦子に対して味の文句を言っていた記憶は確かにあった。さらに風邪を引いて寝込んでいた敦子を絵美が心配で看病したことがあった。そんなときに父は一度も敦子の心配をしていなかった。それどころか風邪がうつったら大変だからあまり近づかないようにしなさいと注意されたような記憶さえある。

「お父さんは怒鳴ったり手を上げたりすることは一度もなかった。でもあの人といるだけで、毎日少しずつ心が削られているような感じがしていた。でも耐えなきゃいけないって思ってたのよ」

「……何で? そんなに辛いのなら、すぐに離婚したら良かったのに……」

「結婚したら簡単に家庭を投げ出すもんじゃないって思ってきたからよ。あなたにもそう言ったでしょ? だから離婚したいっていう自分の気持ちを認められなかったのよね」

敦子は肩を落としながら話した。

「……でも正直限界だわ。これ以上、あの人と一緒にはいられないから。ごめんなさいね、夫婦を続けられなくて……」

「……そんなの気にしなくていいよ。多分、私のために我慢をしてくれたんだよね?」

娘を持ったからこそ、敦子がどうして今まで耐えていたのかが絵美にも分かるような気がした。

「でも、もうお母さんの好きなように生きて良いんだよ」

絵美の言葉を聞き、敦子はハンカチで目頭を押さえた。

「……うん。ありがとう」

それから絵美と敦子は、お互いの健闘を誓って別れた。