<前編のあらすじ>
幸太郎は二人の娘との関係に思い悩んでいる。顔を合わせるたび舌打ちされ、家の中で何をするにも娘たちに許可を取らなければならない。
そんな悩みを打ち明けられる数少ない人間の一人が上司の矢野だ。いつものように悩みを語り合っていると、矢野の様子がおかしくなった。聞けば娘が結婚するというのだが、全てが事後報告、しかも聞かされたのは妻からだったという。
あまりの仕打ちに絶句した幸太郎は、なんとか自分はそうなるまいと娘たちとの関係修復を試みるのだが……。
前編:「知らない間に両家の顔合わせが済んでいた…」思春期の娘との関係に悩む男性が戦慄した、上司が娘から受けた酷すぎる仕打ち
妻から見た夫の姿は
「今日ちょっと遅くなる」と夫の幸太郎から送られてきたメッセージにスタンプを返した彩香は、盛り付けたハンバーグをテーブルに並べた。
「お父さん遅くなるって」
声をかけると、自分たちの部屋から未来と明日香がぞろぞろと出てくる。彩香たちはそれぞれの席に腰を下ろし、食事を始めた。
幸太郎には申し訳ないが、3人だけの食卓は穏やかで居心地がいい。幸太郎がいると、「くちゃくちゃうるさい」「自分の箸で大皿から取らないで」などなど娘たちからクレームが殺到し、自然と食卓の空気も殺伐とする。
学校であったことなんかを話しながら食事を半分くらい終えたところで鍵の開く音がした。娘たちはぴたりと話すのを止めた。敏感な反応に思わず吹き出しそうになるが、やられているほうは堪ったものではないなと思った。
ところが、リビングに入ってきた幸太郎は黙りこんだ娘たちとは裏腹に、満面の笑みを浮かべている。
「お帰りなさい。ご飯用意するから、手を洗って着替えてきて」
「ああ、でもちょっとその前に渡したいものがあるんだ」
「え……?」
彩香が困惑していると幸太郎はテーブルに有名なジュエリーブランドの紙袋を置いた。
「これ、欲しがってたやつだろ?」
「え……」
2人は紙袋の中身を確認し、顔を見合わせる。喜びよりも驚きが勝っているといった様子だ。
「いつも勉強とか頑張ってるからな。2人に似合うと思って、選んでみたんだ」
「ありがとう……」
2人が言うと、幸太郎は満足げにうなずいていた。