突然100万のプレゼント
娘たちが引き上げていった食卓で、彩香は洗い物をしながらまだ食事をしている幸太郎へと目を向けた。2人からありがとうと言われた幸太郎はやけに機嫌がいいらしく、ハンバーグを口に運びながらも口角が緩んでいる。
「あれいくらしたの? ブランドものだし高かったんでしょ?」
「まあな、2つ合わせて100万くらいしたよ」
成果を自慢するように幸太郎は言ったが、彩香はその額に驚愕した。
「え…⁉ そんなのをプレゼントしたの…⁉」
「ああ、ボーナスが入ったからさ。きっと2人が喜ぶと思って」
娘の誕生日でも何でもないプレゼントで100万なんて大金を使うのは金持ちだけだ。平凡な我が家でそんなことがあっていいわけない。
もう買ってしまったものは仕方がなかったが、2人の進学費用などこれからいくらでもお金がかかるシーンはやってくる。こまめに貯金はしているので今回のボーナスでどうこうなる話でもなかったが、きっとそういうことは全く幸太郎の頭にはないのだろう。
「何でもない日なのに、そんな高価なもの渡して……。相談くらいしてよ」
「ごめん。次からはそうするよ」
「はぁ? 次って、またあんな高いもの買ってくるつもりなの?」
「ちがうちがう。そういう意味じゃないよ。言葉のあやだよ」
「まあいいわ……」
たぶん今日の幸太郎には何を言っても無駄なのだろう。まあ、幸太郎も幸太郎で娘たちとの関わり方で悩んでいたようだったから、今日くらいは幸せに浸らせてあげてもいいかなと、彩香は思い直す。
とはいえ、もし幸太郎が明日から未来たちと元通りになれると思い込んでいるのだとしたら大間違いだ。
そういうことじゃないんだけどね。
彩香は口には出さず、心のなかで留めておく。