結局、娘に怒鳴られる
翌朝、いつもより遅い時間に起きてきた幸太郎はリビングを介さず真っ直ぐに洗面所へと向かっていった。そして――
「なんで勝手に入ってくんのよ! マジ最悪! 約束守れよ、ボケ!」
未来の怒鳴り声が響き、肩を落とした幸太郎がリビングへと戻ってくる。ひどいじゃないか、と顔に書いたような幸太郎の表情は悲壮感たっぷりだった。
間もなく化粧を終えた未来が洗面所から出てくるものの、幸太郎へと向けられる冷たい視線は昨日までと何ひとつとして変わらない。
「未来、帰り何時?」
「22時くらい? 絵里と遊んで、そのままバイトだから」
「そう、気をつけていってらっしゃいね」
「うん、いってきまーす」
未来と入れ違いに洗面所へ向かい、顔を洗って戻ってきた幸太郎は背中を丸めたまま朝食を食べ始める。まるで置き捨てられた古い玩具のような哀愁漂う後ろ姿に、彩香は内心で笑ってしまう。
きっと落ち込んでいる幸太郎は家を出て行った未来が昨日もらったネックレスをつけて遊びに出かけたことにも気付いてないのだろう。そういう娘の機微にしっかり気付けるようになりなさいよと彩香は心の中でアドバイスを送った。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。