<前編のあらすじ>
35歳になる仁美は新卒入社したブラック企業で心身を壊し、そこから10年超、実家で母の世話になりながら暮らしていた。
しかし、母が脳出血で命を落とす。このままでは生活が立ちいかなくなる。ついに働きに出て……。とはならず、仁美は唯一ほめられた経験のある編み物を再びはじめ、出来上がった作品をSNSにアップロードするようになる。
作品は徐々にではあるが人気を集め次第に買い手がつくようもなった。もちろん、生活できるほどの収入になるわけではない。姉にも働けと、たしめられた。だが仁美は「自分には才能があるはず」そんな心持ちにもなっていた。
そんなある日、仁美のSNSにDMが届く。
「ビジネス拡大の話がしたい」
期待に胸を膨らませる仁美だったが……。
前編:ブラック企業で心身を壊し10年以上ひきこもりの30代女性…自立を余儀なくされ見つけた「想定外の稼ぎ方」
話を聞いてみることに
「……ですから、倉本さんにはビジネスの才能があると思うんですよ。ハンドメイド品のネット販売で、こんな短期間に成果を出せる人ってそんなにいませんから」
「あ、ありがとうございます」
褒められ慣れていないせいで、笑ったつもりの表情は引きつった。
DMのやり取りをくり返し、仁美は「ビジネス拡大のお話」を聞いてみることにした。オンライン会議の画面に現れたのは、山里と名乗る細面の若い男。年は仁美よりも少し下、きっと30歳くらいだろう。若いのに立派だなと最初は気後れしていたものの、落ち着いた口調で丁寧に、だが表情は豊かに話す山里に、仁美の警戒心はすぐに薄れていった。
「まあオンラインで話して信用しろというのも無理はないですし、もしよかったら一度倉本さんのところにお伺いしますよ。幸い、僕の事務所からもそんなに遠くないみたいですし。そのほうが倉本さんも色々確認しやすいと思いますが、ご予定どうでしょうか?」
「予定は特に……。でも、なんでそんなに良くしてくれるんですか?」
「そりゃあ倉本さんに才能を感じているからですよ。先ほど、ずっと自宅にいらっしゃったことがコンプレックスだって仰ってましたけど、社会から距離を取られて生活してきている分、感覚の鋭さというか、視点の新しさというか、そういう他の人にはない部分を感じるんです。それはきっと倉本さんの強みですよ」
「そんなそんな」
仁美はかぶりを振る。だがまんざらではない。山里は的確に、仁美がほしい言葉をくれた。
「ですからひとまず前向きに検討してみてください。初期費用の25万円は決して安くはない金額だとは思いますが、倉本さんなら2ヶ月もすれば取り返せるはずです。もちろん感覚をつかむまでの間は、僕もしっかり伴走して収益向上のお手伝いを――」