カチコミよ
騙されたかもしれないと仁美が考えるようになったのは、山里から25万で情報商材を購入してから2週間が経ったころだった。
購入までは親密に連絡を取り合っていた仁美と山里だったが、購入の手続きが完了してしばらくすると山里からの連絡は途絶えた。会って話したときにもらった名刺に載っていた電話番号にかけても不在だった。
「ほら、言ったじゃない」
すっかりやる気を失い、毛糸の人形すら作らなくなってしまった仁美の様子を目ざとく察した暁美は深いため息を吐いた。
姉の説教は鬱陶しかったが、前のように反抗する気にもなれず、仁美は毛布に包まった。しかし暁美は容赦なく毛布を剥いだ。舞った埃がカーテンの隙間から差し込む日光に当たってきらめいていた。
「行くよ」
「意味分かんない。どこにも行かない」
「いいから。早く起き上がって」
暁美に身体を揺さぶられる。振り払おうと思ったが、この前勢い余って顔面を叩いてしまったことを思い出して仁美はされるがまま揺れている。
ようやく観念して起き上がってみると、すでに暁美は机の上に置きっぱなしにしていた山里の名刺を手に持っていた。
「カチコミよ、カチコミ」
そう言って、姉は凶暴に笑った。