佑都は毎年、正月休みになると欠かさず実家に帰省をしていた。

古い日本家屋の玄関を開けると奥から子どもの泣き声が聞こえてきた。弟の知己は数年前に結婚し、昨年に第一子が生まれていた。今年はその子どもを連れて帰省すると母の智代が嬉しそうに話していたことを思い出す。佑都はただいまとつぶやいて、玄関を上がった。

居間に向かうと、知己の奥さんが子どもを抱き、両親が初孫を囲んでいた。地元で不動産会社を経営している父の宏英は普段は厳しい顔を崩さない人だが、今は別人のように目尻を下げている。

「お帰り、兄さん」

宏英の横に座っていた知己が佑都の存在に気付き、声をかけてきた。

「ああ、ただいま」

赤ん坊がぐずり始めると、知己の奥さんは2階の和室を借りて、子どもを寝かしつけに行った。知己も荷物を片付けてくると言って席を外し、佑都と両親だけが残される形になった。

「でも、まさか知己のほうが先に結婚して子どもができるなんてねえ。私はてっきり佑都のほうが早いと思ってたから」

「そうなの?」

佑都の言葉に智代はうなずく。

「だって知己って、どこかのんびりしてるところがあるからねえ」

「お前はどうするんだ? 35にもなっていつまでも独り身ってわけにもいかないだろ?」

「……そりゃそうだけどさ」

佑都は曖昧に返事をした。結婚に否定的なわけではない。30を迎えるころには自然と結婚できるものだとすら思っていた。だが恋人ができても結婚の話が具体的になる前に別れ、そんなことが続くうちに気付けば35歳になっていた。

「結婚は考えてるの?」

智代に聞かれて佑都は返事をした。

「まあ、ご縁があればってやつだよ」

この気持ちは偽らざる本音だった。

「ご縁ってねえ……。もうあなたも歳なんだから、待ってても結婚相手が来てくれるわけじゃないわよ」

智代の言葉に佑都はうんざりして肩を竦めた。