妻とどうしても意見が合わず

同じ苦労をしてきたはずのさつきは「のびのび育ってほしいから」と付属幼稚園への入園を拒んだ。小学校受験も同様で、清弥は来年度からこの小学校に通うことになっている。慎一には理解しがたかった。

古く汚い校舎。程度の低い児童と、程度の低い指導。あらゆる質を考えればどちらが清弥のためになるかは一目瞭然のはずなのに、さつきは慎一の気持ちを理解しなかった。

スマホのカメラを構え、ビデオを撮りながら、慎一はもう何度目か分からないため息を吐く。画面の真ん中に移る清弥は静かに整列をしているが、その手前にいる茶色に髪を染めた男子児童がせわしなく揺れ動いているせいで清弥にかぶっていた。
「リュウキー! こっちこっちー!」

突如として、慎一の耳元で黄色い声が響いた。間を置かず、「リュウキー!」と野太い声も続く。

見れば運動会だというのにミニスカートとヒールで手を振る金髪の若い母親と、坊主頭にサングラスをかけたがたいのいい男がすぐ横に立って声をかけている。反応したのは清弥の手前にいた茶髪の子どもで、振り返って飛び跳ねたり手を振り返したりするせいで、清弥はまったく映らなくなった。

スマホを構えるのこそ止めないが、慎一は心のなかで深いため息を吐く。
こういう経験は自分もしてきた。同じクラスの不良やバカに足を引っ張られてきた。