暮らしを見つめ直す麻紀

退院翌日の夕方、麻紀はローテーブルの前に右足を投げ出して座り、カードの利用明細が表示されたスマホと、真新しい家計簿を並べていた。

両親に治療費を払ってもらい、その後の生活費も援助してもらった。麻紀は毎月少しずつ返すことを申し出たが、母は「それよりも貯金しなさい」と言って、決して首を縦には振らなかった。

「うーん、こうして見ると、かなりバランス悪いかも」

小さく呟いて、ペン先を止めたそのとき、スマホが震え、母からメッセージが届く。

「まだ完全には治ってないんだから無理しないで。足りないものがあったら、すぐ言いなさい」

麻紀は少し考えてから返した。

「ありがとう。今日は家計を見直してるよ」

「それならよかった。焦らなくていいからね」

その短い文を見て、麻紀は少しだけ肩の力を抜いた。

「焦らないで、か」

声にしてみると、それは今の自分に必要な言葉のように思えた。

休み続けている会社や、将来のことを考えると、不安にならないわけではない。

だが、初めての1人暮らしに浮かれていた麻紀にとって、これは立ち止まって自分と向き合ういい機会なのかもしれない。

自分で稼いだ給料で、好きなものを買うことが悪いわけではない。ただ、もしものための備えまで含めて、暮らしなのだ。そのことが、今回ようやく腑に落ちた。

「さあ、今日は何食べようかな」

麻紀は通帳を閉じ、大きく伸びをして窓のほうを見た。夕暮れの光が、薄いカーテンを通って差し込み、部屋の中をやさしく照らしていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。