隠しきれなくなった金銭事情
入院5日目、麻紀はベッド脇の簡易テーブルに置いたメモを、手慰みに裏返したり重ねたりしていた。
事故そのものより、これから払わなくてはならない治療費のことが頭から離れない。白い病室の中で、数字だけが妙にはっきり輪郭を持っている。
「麻紀ー? 入るわよー」
控えめなノックのあとで扉が開き、母が紙袋を提げて入ってきた。
両親は事故の知らせを受けるや否や、病院に飛んできた。
父は麻紀の無事を確認すると仕事に戻っていったが、母は毎日こうして病室に来てくれる。
いつものようにてきぱきと世話を焼く手つきを見ていると、なぜかひどく泣きたくなった。
「痛み、どう?」
「昨日よりはまし」
「そう。顔色はまだよくないみたいだけど」
母はベッド脇の椅子に腰を下ろし、テーブルの上の紙に目を留めた。
「それ、何?」
麻紀はとっさに紙をまとめて、手のひらの中に押し込む。だが、隠したところで治療費が払えないという現実は変わらない。
「……病院代。このくらいになりそうだって」
「あー、これなら払ってある分で足りるわね」
「えっ、払ってあるって?」
「ほら、入院保証金。入院した日に払ったでしょ? ……言ってなかったっけ?」
「……聞いてない。けど、ありがとう」
「これくらい出すわよ。いくらお給料もらってるとはいえ、社会人1年目なんてまだまだ大変でしょ?」
少し間を置いてから、母が静かに尋ねた。
「まだ心配ごと?」
すぐには答えられなかった。
口座残高も、カードの請求額も、もう何度も見ている。大丈夫ではないことを、一番よく知っているのは自分だった。
「実は……貯金、あんまり残ってなくて」
母の眉がわずかに動いた。
「え? そうなの?」
「うん、ほとんど使っちゃった……」
「何に?」
「ソファとか調理家電とか、棚とか照明とか、ラグとか……部屋のもの、いろいろ」
口にしていくうちに、自分の声がだんだん小さくなる。
珍しく母は黙っていた。その沈黙の長さで、彼女が驚いていることが分かった。
