「条件付き遺言書」を作成

その条件とは、「裕翔さんが借金を返さない限り、その未返済分に相当する額は正紀さんの兄の子、つまり裕翔さんの従妹である唯さんに相続させる」というものだった。

この条件の是非については、読者諸兄の間でも賛否が分かれるところだろう。とはいえ、正紀さんは本気で唯さんに相続させたいと思って遺言書を書いたわけではなかった。正紀さんなりに裕翔さんのことを思い、彼が変わってくれることを願ったもの、いわば教育的意図による条件だった。
だからこそ、財産を残すだけではなく、「借りたものは返す」という筋を通させるような条件になっているのだ。まさに親として最後まで裕翔さんを正そうとした、正紀さんの親心であるといえよう。
この正紀さんの願いが届いたのか、その後、専門学校卒業からわずか数年で裕翔さんは正紀さんへの返済を完了した。

ただ悲しいかな。返済はすべて手渡しで行われたため、領収書もなければ振込記録もなかった。

しかも、正紀さんも裕翔さんもわざわざ周囲に細かなことを話すような性格でもなかったため、親族含め誰もその事実について誰も知らないままだった。

そしてそのまま、正紀さんは亡くなってしまったのである。

●変更されないまま残った「遺言書」がトラブルの種に……。後編【「本当に返したんだって! 信じてくれよ!」借金400万の「ドラ息子」の主張に親族が向けた「疑いの目」】では、遺産分割協議書の性質や効力、相続にあたっての注意点について解説します。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。