<前編のあらすじ>
成美は原因不明の咳が止まらないことに悩んでいた。風邪でもなく発熱もないが、市販の咳止めはまったく効かない。夫の正弘は繁忙期を理由に「うつさないでくれ」と冷たく、家の中でも別々の部屋で寝る生活が続いていた。
会社の後輩は成美に花粉症ではないかと尋ねるが、成美は否定する。咳はさらに悪化し、押し殺すたびに喉と脇腹が痛んだ。
仕事を終えても食事を作る気力もなく、ベッドに横になる成美。正弘は帰宅しても声をかけてこなかった。満足に眠れないまま夜を過ごした成美は、翌日、午前休を取って病院に行くことを決めた。
●前編【「頼むから早く治してくれ」止まらない咳に苦しむ妻を気遣いもせず寝室を去った夫の冷酷】
診察で判明した咳の正体
成美は会社の近くにある内科で診察を受けてから出勤をした。
穏やかな雰囲気の年配の女性医師によると、成美の症状は花粉症――具体的に言うとスギ花粉による鼻炎と後鼻漏とのことだった。
花粉症と咳の症状が結びつかなかった成美だったが、喉の奥に流れ込んだ鼻水のせいで気道の神経が刺激されて咳が出ているらしい。よほどの重症なのかとも思ったがそういうわけでもないらしく、「今年は多いのよ、咳」とあまりに軽い調子で言う医師に安堵しつつ、処方箋をもらって病院を後にした。
実際、診断後に処方された点鼻薬と内服薬を使ってみたらあれだけ成美を苦しめてきた咳がピタッと止まった。診察を受けて、薬を処方してもらったという心理的な効果もあるかもしれないが、それでも症状が軽くなるのはありがたかった。
その日の午後は、久しぶりに咳が出ることもなく、快適な状態で仕事をすることができた。気分のよさはひとしおで、仕事が終わって家に帰ってから成美は煮込みハンバーグを作った。体調が回復したことで少しだけ手の込んだ料理を作りたい気分だった。
成美から遅れて帰宅してきた正弘は晩ご飯がハンバーグであることに顔をほころばせた。
「おお、美味そうだな」
「早く食べましょう。ご飯はどれくらい?」
「ちょっと多めで頼むよ。今日も1日中外回りで歩きっぱなしだったから疲れたんだ」
成美は正弘の言葉に頷く。今朝までは全く心配をしてくれない正弘に苛立ちを覚えていたが、咳が出なくなったこともあってそんな負の感情もなくなっていた。
「……あれ、そういえば元気そうだな? 風邪は治ったのか?」
「風邪じゃないのよ。全部、花粉症だったみたい」
成美はご飯を食べながら正弘に診断内容を詳しく話した。正弘はへぇとかふーんとか、興味があるのかないのか分からない相槌を打ちながら、煮込みハンバーグをおいしそうに食べていた。
