弱った夫が絞り出した言葉 

「あら、でもそんなことをしたら風邪がうつっちゃうわ。私も仕事がいろいろと忙しいし自分で何とかしてくれる?」

正弘は力なく首を横に振った。

「頼むよ……」

「そうは言ってもねぇ、うつされたら困るから。早く治るといいわね」

「ごめん」

「え、なんて?」

絞り出された正弘の言葉はちゃんと聞こえていたけれど、成美は聞こえないふりをした。

「……だから、ごめん。俺、自分のことばかり考えていて、成美が咳でしんどいときに冷たい態度を取った」

風邪で弱っているせいか、正弘はずいぶんと反省しているようだった。成美はそんな正弘を眺めながら、ふっと小さく息を吐く。

「……そうね。辛くて寝ているときに相手をしてもらえなくて寂しかったわ。別に看病してほしいとは思わないけど、せめて心配くらいはしてくれないと」

「……そうだよな。俺、仕事に追われていっぱいいっぱいだったからさ。次からはこんなことはないようにするから」

「分かったわよ。でも今は、早く治すことだけ考えて。薬を持ってくるからとりあえず今日はゆっくりしておきなね」

そう言って寝室を出た成美は、こっくりとうなずいていた正弘に薬と水を用意しつつ、やれやれと思いながらまた寝室へと戻っていった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。