古びたアパートを前に瑠美はため息をついた。久しぶりに帰ってきた実家の団地は昔と比べて明らかに老朽化が進んでいた。家の周りには雑草が生い茂り、手入れを一切していないのが伝わってくる。

瑠美は重たい気持ちのまま、階段を上がり、インターホンに手を伸ばした。母が亡くなったのが瑠美が37歳のときだから15年ぶりの帰省になる。

久々の再会

母が亡くなって以来、瑠美は一度も実家に帰ることはなかった。理由は父の一男との不和だ。

そんな瑠美が帰省してきた理由は病院からの連絡がきっかけだった。一男がすい臓癌になり本来は入院をすべきなのだが拒んでいるので今後のことを家族で話し合ってほしいと言われたのだ。

瑠美はこれが最後の仕事だと自分に言い聞かせてインターホンを押した。しばらくすると玄関が開き、そこに一男が立っていた。一男は頬がこけて痩せ細った見た目になっており、昔の迫力のようなものは一切なくなっていた。

「久しぶり。ちょっと話があるの」

一男は目線を左右に動かしながら瑠美を家の中に招き入れた。

家の中は外よりも酷いありさまで脱ぎ散らかした洋服やコンビニ袋が床を埋め、テーブルの上には食べかけの惣菜容器や空き缶が積み重なっていた。

瑠美は母がキレイにしてくれた家を汚されたような気がして苛立ちを覚えた。

しかし瑠美は感情を押し殺してリビングに入った。ケンカをすることすら嫌だった。

「病院から連絡があったよ。癌なんだってね」

「……ああ」

「このままだと日常生活にも支障が出るから入院をしたほうがいいわ。お金のことなら心配しないでいいよ。旦那とも相談済みだし私も働いてるから」

瑠美は感情を込めず淡々と説明をした。

しかし一男は首を横に振る。

「もう長くないんだ。だったら病院になんて行っても意味がないだろ。だったら俺はこの家にいるよ」

「どうして? 面倒見てくれる人が近くにいた方がいいでしょ? 階段の上り下りだって大変だろうし、別にこんな状態の家、こだわって住むほどでもないでしょ」

瑠美は嫌味ったらしく言い、荒れた部屋に視線を巡らせた。