折れない父への怒り

「……6年か7年前だ」

瑠美は一男を睨みつけた。

「母さんがいなくなって自分で返済するしかなくなったから仕事を頑張ったってこと? それならもっと早くに仕事を頑張って母さんを楽させてあげれば良かったのに……!」

「……本当に迷惑をかけたと思ってるよ」

「私にじゃなくて本当は母さんに謝るべきなんだよ。でも、もうそれもできないんだから、せめて最後くらいは人に迷惑かけない方法を考えてよ」

瑠美の言葉に一男は何も言わずにうつむいていた。

「病院には私から手続きをしておくから。荷造りをしておいてよね」

「……頼む。ここに俺はいたいんだ。最期はここで迎えたい……」

しつこく食い下がる一男に瑠美はこれまでなんとか抑えていた感情をほとばしらせた。

「あんたにそんなことを言う資格はない! 今まで迷惑をかけたと思ってるのなら最期くらい私の言うことを聞いてよ!」

「最期だから俺のわがままを聞いてくれてもいいだろ……⁉」

「こっちはあんたのわがままのせいでどれだけ振り回されたと思ってるの⁉ それなのにまだ自分勝手なことを言うの⁉」

「お前に迷惑をかけるつもりはない……! 何かあったら自分一人で何とかする……! 今までだってそうしてきたんだ。お前の力なんて必要ない……!」

「何それ……? 口では何とでも言えるでしょうよ」

口論は続いたが一男は頑として譲ることはなかった。やがて一男の姿勢に瑠美も呆れ果て、相手にすることをやめた。

「分かった。それなら勝手にして。せめてもの餞別で部屋だけは片づけて行ってあげるから、それで終わり。金輪際、私の人生に関わらないでね」

瑠美は立ち上がった。

本当はそのまま帰ってもよかったのだが、このまま家を汚くされるのは母との思い出まで汚されているような気がして嫌だった。

掃除を終えて縁を切る。それでもう何もかも終わりにしよう。

瑠美は心の中でそう誓った。

●ギャンブルで借金を作り、家族に苦労をかけた父・一男を敬遠してきた瑠美は、末期癌を患う一男に会いに15年ぶりに帰省した。入院をかたくなに拒む一男と激しく言い合い、縁を切ろうと決意した瑠美。果たして、その思いは最後まで揺らがないのか…… 後編【「なんでもっと早くに更生しなかったのよ」借金を完済し酒もやめた父…娘が最後に選んだ意外な決断】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。