結婚してから25年一美はお盆になると毎年欠かさず、夫を連れて実家に帰っていた。

そんな一美たちを今年も笑顔で迎え入れたのは母の富子だ。父の辰雄はというと、母を手伝うわけでもなく、胡坐をかき、ビールを飲みながら野球を眺めていた。

母とは異なり父の辰雄に対しては一美は複雑な感情を抱えていた。理由は父の怒りっぽい性格とギャンブル癖だ。母を苦しめる父に昔の一美は嫌悪感すら覚えてもいた。

実家を離れたこともあり、憎しみはいくらか薄れたものの、こんな父を暮らしている母の身を一美はいつも案じていた。

そして食事の時間が終わったときのことだった。妙に改まった富子が口を開いた。

「私たち離婚しましょう」

前編:「もうお互いいい歳だし、これからは…」お盆に母が発した“衝撃の離婚宣言”に一同絶句…娘が抱えた複雑な胸の内

娘は実家に残り

翌朝、一美は自分だけ残ると説明し富子と一緒に雅也を送り出した。

辰雄はいつものようにリビングでテレビを見ている。朝食も4人で食べたのだが、誰一人言葉を発さず変な空気のままだった。雅也の運転する車が見えなくなり、一美たちは家の中に戻った。さあここからが大変だと、一美は大きく息を吐いた。

どこかのタイミングで話をしないといけないと窺っていると、辰雄はおもむろにテレビを消して自分の部屋に戻っていってしまった。

離婚の件があり、富子と顔を合わせている状況が耐えられなかったのだろう。しかしこれはチャンスだと思い、一美は富子とリビングで膝をつき合わせて話をすることにした。

「ねえ、昨日のはどういうことよ?」

「ああ、ごめんね。驚かせちゃって。でもね、やっぱり家族が集まった状況で話をしたほうがいいと思ったのよ」

「違うわよ。そうじゃなくてどうして離婚をするなんて言い出したの?そのことを聞くために私は残ったんだから」

一美がそう詰めると富子は目線を下げて口を開く。

「……やっぱりね、これだけ長くいると色々とあるのよ。あなたもそれは分かると思うけどさ」

「もちろん分かるよ。でもさなんで今さらなの? 介護とかが大変だと思うのなら、私たちでお金を出しあって、それぞれ老人ホームとか入れるようにするよ?」
富子は首を横に振る。

「そうじゃないの。そんなことは考えてない。ただ私もね、新しい人生をやってみたくなったのよ」

にっこりと笑う富子の表情からは悲壮感や怒りなどは感じられなかった。あまりにも前向きな顔だった。

だが、どうしても理解できない。そう思った一美は何かきっかけとなる出来事があるはずだと聞き出そうとしたのだが、富子は曖昧な返事をするばかりだった。