<前編のあらすじ>

月末の家計チェックが恒例となっている遥香と夫の和弘。18歳の息子・祐のために美味しいものを食べさせたい遥香は、節約に協力しながらも家族を思う夫を信頼していた。

祐の免許取得合宿の費用のため預金を確認しようとコンビニのATMへ向かうと、20年以上積み上げてきたはずの貯金が、100万円もなかったのだ。

和弘に問いただすと、FIREを目指して行った投資に失敗していたことを知る。家族のためにやったという言葉に、遥香は夫を責めきれなかった。ところが、ある日、家のポストに消費者金融からの督促状が届く。

●【前編】「実は投資に失敗しちゃって」FIREを目指した結果、20年間続けた倹約生活が水の泡に…妻が直面した衝撃の残高

消費者金融からの督促状

遥香は督促状について仕事から帰ってきた和弘を問い詰めた。

「これはどういうことなの? 督促状ってことは借金……だよね? 中身は見ないでおいたけど、この会社って消費者金融でしょ? どういうことなの?」

「……いやだからそれは投資の負けを取り戻すためにさ」

遥香は言い訳をする和弘を睨みつけた。

「隠し事はなしって言ったよね⁉ 借金があるのなら前に聞いたときに言うべきだったでしょ⁉」

「……それは」

「本当に投資? 何にそんなにお金を使ったのよ! お願いだから嘘をつかずに正直に話してよ!」

遥香が強い口調で尋ねると、和弘は苦しそうな顔で説明を始めた。

「……会社の同僚に競馬に誘われたんだ」

競馬という言葉を聞き、遥香の心臓の鼓動が強くなる。

「え……? 嘘でしょ……?」

「ストレス解消になるからいいぞって言われてちょっと賭けてみたんだよ。そしたらとんでもない額が当たっちゃって。俺が1ヶ月真面目に働いてる額をたった1レースで稼げたんだ。そしたらもう、これでいいじゃんって思っちゃってさ」

和弘は頭を掻きながら話す。

遥香には和弘が言っていることの意味が分からなかった。真面目で倹約家な和弘とギャンブルはあまりにもかけ離れた存在だと思っていた。

「もしかして、前に言ってた投資って、競馬のことだったの……?」

遙香が聞くと、和弘は力なく頷いた。その瞬間、体の奥底から怒りがわき上がり体が熱くなる。投資という言葉でこちらを丸め込もうとしてきたのだ。和宏に向けてだけではなく、疑いもせず受け入れてしまった自分自身にも腹が立った。

「貯金を減らしただけで終わるわけにはいかないだろ? せめて貯金していた額は取り返して、そうしたらやめようと思ってた。だから借金をしたんだけど……」

「結局残ったのは借金だけってこと……?」

和弘は膝をついて頭を下げてきた。

「俺だってこんなつもりじゃなかったんだ!どんと貯金を増やすつもりだったんだって! でもとにかくついてなくて……!」

「ふざけないでよ! ギャンブルでお金を増やすなんてできるわけないでしょ!」

遥香は衝撃と呆れを覚えた。これまで信頼し、堅実な生活を共に送ってきたはずの夫のことが、見知らぬ人のように見えた。