押しつぶされそうな重たい雰囲気がリビングに漂っていた。

和美はどんな言葉をかけるべきか悩みながらリビングの椅子に座る武彦の横顔を見ていた。18歳の武彦は大学進学のために受験に挑んでいたが、第一志望はおろか、滑り止めとして受験していた大学まですべて不合格だった。

勉強をサボっていた様子は和美が見る限り全くなく、毎日夜遅くまで真剣に取り組んでいたように思う。しかしそれでも結果がついてこなかった。

「……黙っていても何も始まらないぞ。これからどうするのか何か考えているのか?」

武彦の向かいに座る夫の博臣が重たい口を開いた。

「……浪人する。来年も受験するよ。……次は予備校にも通って、絶対合格するよ」

武彦はそう答えたものの、その声色には明らかに覇気がない。だが、不合格を突きつけられ投げやりになる気持ちも仕方がないと和美は思った。

「……簡単にそんなことを言うな。受験がタダだと思っているのか? 受験をするのも予備校に通うのもお金がかかるんだぞ」

博臣が厳しい口調で武彦に言った。武彦はうつむいたまま全く反応しない。

受験を失敗した息子と厳しい父

博臣は中堅の食品メーカーで営業部長をしていて、稼ぎも十分にある。和美も短大卒業をしてから20年近く医療事務の仕事をしているので、ある程度余裕のある環境ではあった。武彦1人の予備校の授業料くらい、何も問題ないはずだ。

「……迷惑かけるのは分かってるよ。でも俺は大学に行きたいから。金は自分でなんとかするから認めてくれよ……」

武彦は言葉を振り絞った。しかし博臣はそんな武彦に変わらず厳しい視線を向けていた。

「自分でなんとかすると言ってもどうするんだ? バイトでもすると言うのか? そんなことをしてたら勉強がおろそかになるだけだろ? できもしないことを言うんじゃない」

博臣の詰め寄るような物言いに、武彦は何も言えずにそのままリビングを出て部屋に戻ってしまった。

慌てて和美は武彦を追って部屋に入った。

部屋で武彦は机に突っ伏していた。

武彦が大学に行く理由は知っていた。大学に行って法律を勉強して弁護士になるという夢を叶えるためだ。そんな武彦の夢がこのままだと消えてなくなってしまう可能性がある。

和美は覚悟を決めて武彦に声をかけた。

「……武彦、受験料とか講習のお金とかは全部私が出すから。だから武彦は何も気にせずに来年も受験をしていいからね」

和美の言葉に武彦は驚いたように顔を上げた。和美は目を見開いていた武彦に笑顔を向けた。