再び受験シーズン
そうして季節は秋を迎え、受験がいよいよ迫ってきていた。
博臣が寝た後に和美がリビングでテレビを見ていると武彦がやってきた。
「ちょっといい?」
「うん。どうかしたの?」
「願書を取り寄せて出さないといけないからさ」
それを聞き、和美はテレビを切った。
「そうか、もうそういう時期なのね。第一志望は去年と変わってないのよね?」
武彦は法学部のある国公立の大学を志望していて、模試でもB判定をもらっていた。
明らかに昨年よりも手応えを感じていて武彦を信頼して良かったなと思っていた。
「うん。それでさ去年は滑り止めをちょっとしか受けなかっただろ? あのせいで浪人をしたっていうところもあるから今年はちょっと多めに受けようと思ってるんだ」
「ああ、そうなんだ。そんな弱気にならなくてもいいと思うけどね」
「いやもう1回、浪人をするのはさすがにキツいからさ」
そう言って武彦はたくさんの私立大学の名前を出してきた。その中には都内だけではなく地方の大学もあり、その数は10を超えていた。
「え……? そんなに受けるつもりなの……?」
「……うん。共通テストの併願とかも考えるとこれくらいかなって。それに今年が最後だと思ってるから。悔いがないように受けようと思って」
暗い顔で話す武彦を見て和美は苦しい胸の内を隠して頷いた。
「……分かった。やっておくね。頑張って」
「ああ、母さん、本当にありがとう……!」
それだけ告げると武彦は部屋に戻っていってしまった。
1人になった和美は武彦が言っていた大学の受験料を調べた。全て申し込んだ場合、受験料は30万を優に超える。
その事実に和美は頭を抱える。さらに地方の大学の受験には旅費も必要になってくる。
去年、お金のことで武彦を怒った博臣の言葉を和美は思い出す。ようやくあのときの博臣の気持ちがしっかりと理解できた気がした。
●志望校すべてに落ち、浪人を決意した息子・武彦。厳しく叱る夫・博臣に代わり、和美は内緒で予備校費用を全額負担することを決める。しかし、2度目の受験で武彦が出してきた大学の数は10校以上。受験料だけで30万円を超える事実に、和美は頭を抱える…… 後編【予備校授業料に多額の受験料が加わり限界前寸…浪人性の息子の背中を見て揺れる母、下した「最終決断」とは?】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
