息子が察した家庭の異変
「父さんと喧嘩でもした?」
免許合宿から帰ってきて一週間が経ったころ、ふいに祐が訪ねてきた。夕飯の準備をしていた遙香は思わず聞き返す。
「な、なんで……?」
「だって明らかに父さんと口数が減ってるし、目も合わそうとしてないじゃん。そんなのさすがにすぐ気付くよ」
気取られないようにしていたつもりだったが、祐は気付いていたらしい。
「何があったの? 教えてくれないと俺が居心地悪いって」
家族なのだから隠し事はしない。そう思った遥香は、祐が免許合宿に行っているあいだに起きた出来事を包み隠さずに話した。
「……ごめんなさい。私がパパに管理を任せっきりにしてたのも悪いの。こんなことになるまで全然気付かなくて」
「……い、いや、それはしょうがないよ。父さんの性格を考えたら、ギャンブルにのめり込むなんて想像もできないから」
それほどまでにギャンブルというものは恐ろしいものなんだと身に染みて理解した。ギャンブルというのは人も壊すし人生も壊す力を持っている。そして夫婦の関係すらも壊してしまった。
「……俺、大学じゃなくて、高校卒業したら働くよ。そしたら、少しは借金返すの早くなるだろ」
驚いて遥香は顔を上げる。
「ど、どうしてあなたがそんなことを……?」
「育ててもらった恩返しっていうか……家族なんだし困ったときはお互い様じゃん」
覚悟を秘めた祐の言葉を聞き、遥香は恥ずかしくなった。遥香は自分自身のことばかりを考えていた。しかし祐は自分のことよりも家族のことを考えていた。
遥香は首を横に振った。
「祐、あなたは絶対に大学に行きなさい。お金のことは心配しないで。どんな手を使ってでも私が大学に行かせるから」
「え、でも……」
「安心してちゃんと勉強して。免許取って浮かれてたらダメだからね」
