<前編のあらすじ>

母・加奈子の三回忌で実家を訪れた勝美は、荒れ果てた家の様子に言葉を失う。1年前とは別人のように老いた父・辰雄が1人で暮らす家は、ゴミで溢れかえっていた。

勝美は亭主関白で傲慢だった辰雄のことが昔から嫌いで、実家に帰ることを避けてきた。母に横暴な態度をとり続けた父を許せなかった。

父のためではなく母のために、と掃除を続けるうちに寝室の押し入れで発見した家計簿ノートから1枚の封筒が滑り落ちた。そこには母の綺麗な字で「勝美へ」と書かれていた。

●前編【「家にいるくせに使えん」と母を罵り続けた横暴な父…三回忌で実家に戻った娘が目にした「ゴミ屋敷」の惨状

手紙に綴られた母の想い

手紙の最初には、わざわざ手紙を送ろうとしたのか理由が書かれていた。

手紙を書こうと思ったきっかけは辰雄が倒れたことだった。

加奈子が倒れる少し前に辰雄が倒れたことがあった。軽度の脳梗塞で数日の入院を必要としたものの、すぐに回復し、後遺症も残らなかった。

実家から距離を置いていた勝美がそのことを知っているのは、加奈子から見舞いに来ないかと電話があったからだ。

『命に関わることじゃないんでしょ、ならわざわざ会いにいくなんてやだよ』

電話口の加奈子に向けて、そう言い捨てたことが鮮明によみがえる。

本心とはいえ、勝美が口にした心無い言葉に、加奈子は寂しくて仕方なかったらしい。見舞いに行かなかったことに後悔はなかったけれど、母に寂しい想いをさせてしまったことは勝美にとっても少なからずショックだった。

読み進めていくと、手紙は勝美が生まれる前の話へとさかのぼっていった。

手紙によれば、若い頃の辰雄は小説家を目指して執筆活動をしていたらしい。しかしそんなときに加奈子が勝美を妊娠し、学もスキルもなかった辰雄は家族を養えるような稼ぎを得るために長距離トラックの運転手になった。

労働時間は長く、体力的にも精神的にもきつい仕事だった。夜中に帰ってきては母の料理に文句をつけ、酒を飲んで声を荒げ、いつもタバコのにおいをさせていた辰雄のことが、幼い勝美は嫌いだった。しかし加奈子からの手紙には、そんな辰雄の振る舞いを心と体をすり減らして頑張っていたんだから大目に見てあげてほしいと書いてあった。

好き嫌いはともかく、経済的に言えば辰雄のおかげで家族の生活が成り立っていたことは疑いようのない事実だった。

もちろん、そのことで加奈子に行った横暴が許されるわけではない。だが辰雄を気遣う言葉の端々からは、辰雄に対する加奈子の愛情があふれるほど感じられた。

手紙の最後には誰よりも家族を思って行動をしていたのは辰雄だと書かれてあった。