一美が車の助手席を開けると、うだるような熱気とセミの大合唱に迎えられた。
毎年、思うことだがよくもまあこんな環境で生まれ育つことができたなと昔の自分を褒め称えたくなる。運転席から夫の雅也が降りてきて苦笑する。

「相変わらずここは暑いね」

「盆地だからね」

結婚して25年、毎年欠かさずお盆の時期には一美の実家に帰省をしている。車で片道5時間以上かかるので帰省も楽ではないが、嬉しそうな母の顔を見ると道中すらも悪くないなと思えた。

一美が玄関の寂れたインターフォンを押すと、足音が近づいてきて玄関が勢いよく開き、母の富子が笑顔で出迎えてくれた。

「あら~久しぶり~。暑いでしょ、早く中に入って。クーラーが効いてるからねえ」

「お義母さん、お世話になります」

「いいのよ、そんな毎回毎回。早く中に入って」

挨拶を交わしながらリビングに向かうと、父の辰雄があぐらを掻きながら高校野球を眺めていた。雅也はそんな辰雄にも挨拶をする。

「お義父さん、お久しぶりです」

「うん、久しぶりだな。疲れたろ。ビール冷えてるからな」

「ありがとうございます」

「……一美も、お帰り」

「うん、ただいま」

一美は素っ気なく行って、富子を手伝おうと台所へ向かった。

富子との関係は良好だが、辰雄とはそうではない。

今でこそ年を取って多少丸くなったが、辰雄は怒りっぽい性格だったし、何よりギャンブル癖があり、富子を何度も困らせた。家事をしながらあれこれと金策に巡ったり、夜通し内職をしていた母親の姿を見ていたからこそ、一美は辰雄に対してこれでもかというほどに幻滅していた。

もちろん、一美が独立して実家との距離が離れたことで、抱いていた嫌悪感は昔ほどではなくなった。とはいえ、何事もなかったかのように振る舞えるはずもなく、いまだに少しぎくしゃくとした関係が続いている。

長旅の休憩も束の間、一美は富子を手伝って夕食の準備をした。「あんたは座ってなさい」と富子は言ったが、もう母も年だ。まだまだ元気に振る舞っているが心配でもあった。