離婚届を見た娘の複雑な胸の内
「大変だったね……」
用意してもらった2階の寝室で、気遣うように言った雅也に一美は苦笑する。雅也の言葉が指していることはすぐに分かった。
「ほんと。いきなり離婚なんてね」
そう言って一美は雅也の隣に座った。
「ねえ、私さ、もう少し実家に残ってもいい?」
専業主婦である一美は急いで帰る必要がなかった。いつもは雅也に合わせて帰っていたのだが、今年はそういうわけにもいかないだろう。
「そうだね。家族で話し合って決着をつけたほうがいいよ」
「ありがとう」
暗い天井を見上げながら一美はあれこれと離婚の原因について考えた。
正直、一美が知ってるだけでも原因は沢山ある。だから富子が離婚を決断したのなら応援するくらいの気持ちになると思っていた。
しかしあのとき、離婚届を見た瞬間、一美は止めようとしていた。やっぱり親が離れ離れになるというのは嫌な事なのだと思い知った。
これからどうすればいいのだろうか。考えても埒が明かないことを延々と考えて、一美は大きなため息を吐いた。
●実家に残り、いたたまれない空気が流れる父と母を見守る一美。すると、母が何やら化粧をはじめどこかへ出かけだす。怪しんでそのあとをつけてみると、母が向かったのは……。後編:【父に離婚を突き付けた70代の母が見慣れぬ厚化粧…怪しむ娘が母の後をつけると、そこにいたまさかの人物】にて詳細をお届けする。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。