うだるような暑さに拓司は目を覚ます。締め切ったカーテンの隙間からは、刺すような夏の日差しがこぼれていて、脱ぎっぱなしの洋服やゴミが散乱している1Kの狭い部屋を薄っすらと照らしていた。

拓司は横になったままクーラーのリモコンを探し、電源を入れた。電気代は高いのでできればつけたくないのだが、この状況ではそんなことも言ってられない。

クーラーをつけてしばらくすると快適な室温になった。拓司は二度寝を試みた。コンビニの夜勤終わりで、体はくたくただった。今日は休みなので、気が向くままに寝て過ごそうと思った。

しかし1度覚醒した脳は拓司を睡眠の世界に誘うことを拒む。向かいの道路では工事をやっているようでお構いなしのドリル音も睡眠を阻害していた。

仕方なく拓司は体を起こし、基盤で座面がぺちゃんこになった座椅子に座る。携帯をイジりながらいつもの癖でテレビを点けた。するとテレビから聞き慣れた金属音が耳に飛び込んでくる。顔を上げるとテレビでは甲子園中継がやっていた。拓司はすぐにテレビを切り、舌打ちをする。そして煙草に火をつけた。

「クソ、すっかり忘れてた……!」

もやもやとした気持ちを紫煙に乗せて吐き出す。しかし10年という時間をかけて胸の奥にこびりついた後悔が消えてくれる気配はない。そのまま煙草を吸っていると、携帯が鳴った。画面には赤沢という文字が浮かんでいた。

赤沢亨は同じ高校の野球部でチームメイトだった。拓司はエースピッチャーで、亨は4番サード。

何でこんなタイミングでと、苛立ちが募る。無視をしようかとも思ったが、勝手に動いていた手が緑の受話アイコンをタップしていた。

「おお、久しぶり。元気にやってんのか?」

「まあな。ぼちぼちだよ」

拓司がそう答えると亨は嬉しそうな笑い声を上げる。

「相変わらずクールなヤツだな。今、野球見てるか? 何か甲子園見てたらお前に電話したくなってさ」

はた迷惑な話だと思ったがそれは声に出さない。