今、お前の家の前

電話の音で拓司は目を覚ました。顔上げるとあたりはすっかり暗くなっていた。
携帯を見ると、20時を回っていた。半日も寝ていたらしい。拓司はそのまま携帯を耳に当てた。

そのまま携帯を耳に当てた。

「はい」

「おお、拓司か。今、大丈夫か?」

亨だった。

「……何だよ?」

「学校行こうぜ。新チームに差し入れがてらさ。今年なんて地区大会3回戦負けだし、監督も次の夏で勇退されるし、景気づけにさ」

「学校って高校のことか?」

「他にどこがあるんだよ。もう着くぞ。さすがにお前も日曜は休みだろ」

「は? え? もう着くってどこに?」

「お前の家」

「なんで俺の家の場所知ってんだよ」

「なんでって学生のとき何度も泊まり行っただろ。どうせお前のことだから引っ越してないんだろ?」

「ふざけんな。絶対行かねえからな」

頭はあまり回ってないが、拓司は半ば本能的に断った。もう野球には関わりたくなかった。

●心にわだかまりを抱えている拓司に対し、どこ吹く風といった雰囲気の亨は母校でキャッチボールをしようと持ちかける。そんな亨に拓司はついに「なぜ野球をあっさりやめたのか」と問いだす。返ってきたのは意外な答えだった。後編:【「いやいや野球をやっていた…」大学野球でプロ入り間近だった友人が野球を辞めた「驚きの理由」】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。