旧友に比べ自分は……
亨とは学生時代は仲が良く、大学に行った後もちょくちょく会って遊んだりしていた。しかし拓司が野球を辞めたころからぱったり連絡を取らなくなっていた。
「いや見てないよ。仕事が忙しいんだ」
「ああ、そうなんだ。そりゃ悪かったな。土曜なのに大変だな。今ちょっと大丈夫か?」
「いや、これから会議」
「そうか。じゃあまた今度な。タイミング見て掛け直す」
もう掛けてくるなよ、とは言えないまま、亨は電話を切った。
拓司も亨は共に高校3年生のときに甲子園に出場した。2回戦で負けたが、あの瞬間は人生の絶頂だったんだと今でも思う。
その後、拓司は推薦をもらった大学に入り、プロ入りを目指して野球に没頭した。大学では1年ながら選手権にも登板し、納得はできないまでもそこそこの成績を収め、注目もされた。しかし高校生の時から患っていた肩の怪我が酷くなり、1年のオフシーズンに野球を続ける事が不可能になった。
そこからは絵に描いたような転落人生だ。推薦で入った拓司が野球をせずに大学にいられるはずもなく、2年に上がる前に辞めた。就職するにもやる気が起きず、コンビニや引っ越しや宅配など、バイトを転々としながら28歳まできてしまっていた。
一方の亨は大学で順調に活躍し、ドラフト上位で選ばれるのは間違いなしだとまで言われる選手に成長した。連絡を取らなくなったのは、そんな亨に嫉妬したからだ。
当然、亨はプロに行くものだと思っていた。高校時代からプロの世界で再会しようと、歯の浮くような決意を互いに確かめ合ってきたのだから。
だが亨はプロ志望届を出さなかった。怪我をしたという噂もなかったにも関わらず、亨は表舞台からあっさり身を引いて引退した。
だから亨は、拓司が諦めないといけなかった世界になぜか行かなかった男だった。そんな亨の気持ちは分からないし、分かりたくもない。
拓司は冷蔵庫に向かって缶チューハイを取り出す。プルタブを開け、立ったまま一気に飲み干す。アルコールで嫌な記憶と感情をぶっ飛ばしてしまいたかった。
それなのに、白球を打つ甲高い金属音が今も耳にこびりついている。