<前編のあらすじ>
めぐみは小学校4年生になる一人息子の蓮と聡明な夫と仲睦まじく暮らしている。そんなめぐみには気がかりがあった。
蓮はスマホゲーム、YouTube三昧の生活を送っていた。夏休みだというのに、友人とも遊ばずスマホにかじりつくようにして過ごす息子に寂しさと言いようのない不安を覚えていた。
夏休みの宿題は終わったのか。めぐみがそう問いただすと、蓮は終わったと答える。見てみると、確かに宿題は終わっていた。日記はなぜか8月末まで埋まっていたし、どうやら読書感想文は本を読んで書いたわけではないようなのだが。
とはいえ、めぐみ自身も働いている。なかなか蓮と向き合う時間は取れなかった。事態を夫に相談してみると、宿題が終わっているのなら好きにさせればよいのでは、そんな答えが返ってきた。その言葉に少し気を取り直しためぐみだが、ついに不安が的中してしまう出来事が起こる。
ある日届いたクレジットカードの明細を見ると、そこには身に覚えのない高額の利用履歴が書かれていた。もちろんすぐに原因はわかった。
蓮のスマホだった。
前編:『ソシャゲ三昧の夏休みを過ごす息子…「暑いし仕方ない」と思っていた矢先に届いた母驚愕のクレジットカードの利用履歴の中身』
夫が動いた
夜、夫が帰宅すると、1人で悶々と抱えていた気持ちがせきを切ってあふれ出した。
「俺に任せてくれる?」
彼は遅い夕食を取りながら一通りめぐみの話を聞いた後、蓮の部屋へ向かった。食器を片付けながら、奥の部屋で行われている2人の会話に耳を澄ませていると、しばらくして、夫が戻ってきた。
「どうだった?」
「うん、大体分かったよ。あの子も一応悪いとは思ってるみたい」
拍子抜けするほどあっさりとした彼の言葉に、めぐみは少しだけ肩の力を抜いた。
「そっか……ありがとう」
その後、めぐみは夫が蓮から聞いた話を教えてもらった。
「ガチャっていうのは、ゲームの中のくじ引きみたいなもんらしい。それを引くと、アイテムとかキャラクターがもらえるんだって。で、URっていうのは、物凄く貴重なキャラで、それがどうしても欲しかったんだってさ」
「だからって、何万円も……」
「分かってる。今回のことはもちろん蓮が悪い。でも、あの子なりに、理由があったんだ」
夫は、蓮のスマホ画面を見せてもらいながら、ひとつひとつ仕組みを教えてもらったらしい。
今どきのソーシャルゲームは、有料ガチャという仕組みが組み込まれている。お金を払って回すと、確率でレアなキャラクターが当たる。それが「UR」、ウルトラレアと呼ばれる存在。
「あと『天井』っていうのはね、一定額以上課金すると、確定でもらえるっていうシステム。運が悪いと、そこまで引き続ける羽目になるんだと」
「ギャンブルみたいね」
「実際、似たようなもんかもな」
夫は深いため息をついて、めぐみの顔を真っ直ぐに見た。
「俺たちが知らなかっただけで、あの子はそういう世界で遊んでたんだ。最初は500円とか、1000円くらいだったけど、徐々に止まらなくなったらしい」
めぐみは何も言えなかった。
明細を遡れば、たしかに少額の利用履歴が残っている。忙しさにかまけて蓮の生活態度を放任しがちだったのは事実。
出不精やものぐさなのは性格だから仕方がない。
彼の中に生じた異変を、めぐみはそんなふうに見逃していたのかもしれない。
夫の寝息を聞きながら、じっと天井を見つめているうちに夜が更けていった。