息子からの謝罪
翌朝、いつもより早く起きてきた蓮は、めぐみの顔を見た瞬間、バツが悪そうに目を逸らした。
それでも「おはよう」と声をかけると、ぼそっと「……おはよう」と返ってきた。土曜日だというのに、夫は出勤している。コーヒーとトーストの香りが漂う食卓に、気まずい空気が流れた。
「蓮、昨日のことなんだけど……」
静かに切り出すと、蓮は一瞬、警戒するように表情を硬くしたが、やがて小さな声で呟いた。
「ごめんなさい……」
うつむいたまま、めぐみを正面から見ようとはしないが、自ら謝ってくれただけで十分だった。
張りつめていた空気がふっと和らぐ。
「お母さんも……怒鳴ってごめんね。もっとちゃんと蓮の話を聞くべきだった」
蓮は、「うん」と頷いたきり黙ってトーストをかじっている。
「ガチャっていうの、あんまりよく分かってなかったけど、昨日お父さんから聞いたよ。URって、すごく強いキャラなんだって?」
「……強いし、かっこいいし、限定だし。みんな持ってて、自分だけいなかったら、イベントで負けるし……つまんないんだ」
「だからカードを使ったの?」
「……最初は、お小遣いの残りでギフトカードを買ったりしてやってた。でも、URってなかなか出なくて……今回、天井まであとちょっとだったんだ。だから、つい……」
「そうだったんだ……でも、人のお金を勝手に使うのはダメだよ」
「分かってる。お父さんからも言われた……ごめんなさい、お母さん」
今度は、顔を上げて言った。
目が合うと、思わず胸の奥がじんと熱くなる。ふっと微笑みながら「いいよ」と返すと、蓮は安心したような、少し照れくさそうな顔で笑った。
窓の外では、夏の空が少しだけ高くなっていた。