<前編のあらすじ>
翔太は有名私大を卒業したものの定職に就かず自由気ままな生活を謳歌していた。さすがにまずいと思い一念発起したのは26歳のこと。なんとか小さな印刷会社に就職できた。
良い同僚と先輩に恵まれたが、翔太は納得がいっていなかった。仕事は地味だし、新卒で就職した同期とは給与面で埋めがたい差がついていたからだ。
5年勤目で転職を決意。今度は見事、外資系コンサルへの転職を決める。有頂天になる翔太だったが、新たなる地獄が待っていた。
セミナーや勉強会、ゴルフに異業種交流会と方々に顔を出しては金を使う日々。もちろん経費など出るはずもなく、気づけば借金でやりくりをするはめになってしまっていた。もうキャッシングカードは6枚目だ。
なんとか現金をかき集め、月の支払いをすます。首の皮一枚、なんとかつながっている状況だが、そう遠くない将来、終わりが来てしまうであろうことは翔太も理解していた。
前編:家賃の未払いで追い出されかけ、キャッシングカードは6枚目に突入…30代外資系コンサルマンが借金漬けの日々を過ごすワケ
大学のサークル仲間を集めたワケ
「そろそろ出るか」
店員が持ってきた伝票を受け取るや、サークル長だった山本が言った。数人がそれに頷いて、山本は隣に座っていた翔太に「はい、幹事」と伝票を渡した。
その日は、大学時代のサークル仲間が集まった飲み会だった。未だに年に数回程度動くことがあるグループチャットで、みんなを集めたのは翔太だった。
「えーっと、1人6,000円。俺、カードで払っちゃうから、現金集めるな」
「電子マネーじゃだめ? 俺、現金持ち合わせねえや」
1人がすぐに言ったが、これは予想の範囲内だ。
「あー、まじか。ちなみに現金ない人?」
3人ほどの手が挙がる。現金を持っているのは2人。これでは少し心もとないが、もちろんそれも計算のうちだ。
「おっけー。じゃあとりあえず俺、払ってくるわ」
立ち上がり、レジへと向かう。そのあいだも、翔太の頭のなかは金の計算でいっぱいだった。
支払いを終え、現金と電子マネーを受け取って店を出る。翔太は店の前でみんなに呼び掛けた。
「もう1軒、どうよ? まだ10時だしいけるっしょ」
学生のときなら朝まで飲むのなんて日常茶飯事だった。だが30歳を過ぎ、学生時代よりもいくらか体力が衰えたり、それぞれに家庭を持ったりしたみんなの反応は芳しくない。
「なんだよ、行こうぜ。久々集まったんじゃねえかよ」
翔太はなんとか粘って山本と坂田を連れて、2軒目の居酒屋に向かう。もう腹はいっぱいだから1軒目の店ほど金は使わないだろうが、少しでも多くの現金を集めておきたかった。道すがら「お前、そんなに生活やばいの?」と山本からそれとなく聞かれたが、もちろん肯定するわけにもいかず、「んなわけ!」と笑って誤魔化すことしかできなかった。