<前編のあらすじ>
派遣社員として働いていた米田彩さん(仮名・20代後半)は、「6カ月後に正社員化と給与5%アップ」という好条件の求人に応募。入社後しばらくは平穏な日々を過ごしていたが、4カ月後、同期が契約期間満了で退職してしまう。過去に何度も契約を切られてきた経験があった米田さんは不安に襲われる。
必死に働いた結果、彼女は晴れて正社員に登用された。しかし喜んでいたのも束の間、上司から衝撃の事実を聞かされる。「うちはキャリアアップ助成金を受け取るために、必ず入社半年間は契約社員として、給与も本来の額より5%下げて募集をかけるんだよ」。彼女は正社員になるまで不安定で、将来が不透明な状況で頑張るしかなかった過去の自分が思い出され、頭が真っ白になってしまった。
●前編:【「派遣から念願の正社員に」喜びも束の間、教わった求人作成の手法に強烈な違和感…20代女性が見た“会社の闇”】
正社員化を促すはずの制度の問題点とは
キャリアアップ助成金とは国から企業に対する助成金である。内容としては、6カ月以上自社に勤務している非正規社員について、5%以上の給与アップなど簡単な一定の条件を満たし正規雇用に切り替えることで受け取れるものだ。
コースや企業規模、対象者の条件によって幅があるものの、数十万円、場合によっては百万円規模の額が支給される。雇用する労働者の給料の額にもよるが、給与を5%アップさせても、当面はその増加分をこの助成金で賄えてしまう。さらに、この助成金は同一事業所で複数の対象者での申請が可能だ。要件を満たせば繰り返し活用できる仕組みとなっている。
ここだけ見ると非正規雇用の正規雇用化を促す素晴らしい助成金に見えるだろう。だが実態はそれだけではない。
会社によっては労働者がある程度の短期間で離職することを見込み、求人にかかる費用をここでペイしようとしたり、ひどい場合は利益を得ようと目論んでいたりすることもある。
タチが悪いのが悪質な社会保険労務士の存在だ。この助成金は多くの社会保険労務士が申請代行をしている。申請代行にかかる手数料の額は社会保険労務士によりさまざまだが、多くの場合、支給される助成金の20%前後が相場となる。場合によっては30%近い金額になることもある。そのため社会保険労務士の中には自らの利益のために助成金を利用するように促す事例もある。
実際、米田さんの会社も社会保険労務士からの提案でこの助成金を数年前から始めている。報酬の割合も25%となっており、会社は相応の報酬を定期的に支払っていたようだ。
