父に思いを聞くが…
昼過ぎ。富子が買い物に行くと言って出かけていったので、一美は辰雄の部屋をノックした。相変わらず不機嫌そうな顔で辰雄がドアを開けた。
「ねえ、このままでいいと思ってるの? 離婚したいの?」
一美は敢えて厳しい言葉を辰雄に投げかけた。辰雄がしっかりしないと本当に離婚になってしまう。それなのに面と向き合おうとしない辰雄に苛立ちを抱いていた。
「何か心当たりないの? お母さんを怒らせるようなことしたんじゃないの?」
辰雄は首を横に振る。
「……そんなことはない」
「また勝手にギャンブルしてたとかさ」
「……もう完全に足を洗ったよ。あんなのはもうコリゴリだ」
本当に心からそう思っている感じだった。
辰雄はかつてパチンコに嵌まり、借金を作り一美や富子に大迷惑をかけた。具体的な金額までは子供だった一美は知らなかったが、一美の大学進学すら危ぶまれたほどだった。そのときは富子が親戚に頭を下げてお金を貸してもらったことで事なきを得ていたが、精神的に家族全員が追い詰められた最悪の思い出だ。
だから、あれ以上の何かをしでかしたに違いない。きっと何かあるはずだ。そう思って、一美は辰雄に詳しく最近の様子を聞いてみたが、辰雄は何もおかしなことはないと苛立って答えるだけだった。
何もないのなら離婚なんて言い出すわけがない。きっと辰雄が気付いてないだけだ。だが2人のあいだに起きた微妙な何かを理解するには、一美と両親との距離は離れすぎてしまっていた。