<前編のあらすじ>
小枝子は100円ショップでパートとして働いている。同僚にも恵まれ、雰囲気も悪くない。良い職場だ。だが、1つだけ大きな問題がある。
小枝子だけを狙って文句を言ってくるクレーマーだった。50代くらいのその女性は、小枝子を見つけるやストレス解消するかのように幾度となく彼女をなじる。新人で研修期間中の友梨が小枝子の仕事を見学している時でもそれは変わらなかった。
辛いが良い職場からは離れたくない。そもそも、パートを辞められるほどの余裕もない。悩む小枝子だったが……。
前編:レシートがないのに返品要求、無茶な値切りに暴言…100均で働くパート主婦に襲い掛かる「モンスターカスタマー」
店長に相談しても解決しない
明らかに小枝子が集中攻撃を受けているのを見かねて同僚たちが店長に掛け合ってくれると、店長は事務所で面談の時間を設けてくれた。
「例のお客さんから色々と言われているんだって?」
「……そうですね。辛いというのが正直な気持ちです。もうあのお客さんの顔を見るだけでお腹が痛くなるくらいにストレスを感じていて」
店長は腕を組んで深いため息を吐く。
「文句をかなり言ってくる感じなんだよね?」
「はい。商品に対する苦情がかなり多い感じですね。でもいつも私ばかり標的にされてて……。店側で何とか対処をしてもらいたいのですが……」
「対処と言われてもねぇ。こちらの商品に問題があったというのが原因だからさぁ」
「それだって本当かどうか分かりませんよ」
小枝子の言葉に店長は苦笑いを浮かべる。そこにはこれ以上面倒ごとを抱え込みたくないという感情が見て取れた。
「向こうが万引きをしてるとかなら出入り禁止にはできるけどね。でもさ、別にそういうわけじゃないし……」
「じゃあどうすればいいんですか……」
「もちろん俺がレジに出ているときならすぐにでも対応するよ」
この言葉は気休めにもならない。
例の客は店長がレジに出てないときや男の店員が近くにいないときを見計らってクレームを言ってきている。反撃が来ない状況を狙っていることは明らかだった。
結局、面談では特にこれといった対策が講じられるようなことはなく、店長は本気で問題視してくれているわけではないということだけがよく分かって終わった。
肩を落として事務所を出ると、友梨が待っていてくれた。
「どうでした?」
「……ダメね。やっぱり難しいみたい」
小枝子はため息をついた。
「そうですか……」
目の前で怒鳴られる小枝子を見た初日以来、友梨は小枝子のことを心配してくれている。まだ入りたての新人にそんな余計な気をつかわせてしまっていることを、小枝子は申し訳なく思ったが、同時に1人ではないと心強くもあった。