休憩に入ったはずの友梨が商品を突き返す

とにかく早く対応をしてこの人を追い払ったほうがいい。小枝子はそう判断して台の上の商品を取ろうとした。しかしそれよりも早く、別の手がその商品を取り、クレーム客に突き返した。

「返品が必要でしたら列にお並びください」

「……だから買うわけじゃないって言ってるでしょ!」

「関係ありません。購入だろうが返品だろうが同じレジ業務です。だったら皆さんと同じように並んでもらわないと困りますよ」

返品商品を突き返し、毅然とそう言ったのは休憩に入っていたはずの友梨だった。
客は少しだけたじろぎ、小枝子のことをにらみつけてくる。

「ねえ、この子は新人でしょ! あんたどんな教育をしてるのよ⁉」

「い、いえ、彼女が言ってることは間違っていません」

そこで小枝子は初めてクレーム客に反論をする。自分のことではなく、同じパートの仲間のためなら戦うことができた。

「何ですって……あんた、客商売を何だと思ってるの⁉ 客を大事にできないような店は潰れるわよ⁉ それでもいいの⁉」

「それでしたら列に並んでもらえますか?」

友梨の硬質な声が、激怒するクレーム客に立ちはだかる。

「あんたね……!」

「きちんとルールを守って列に並んでいるこの方達も大事なお客様ですから。あなたのためにこの方達を蔑ろになんてできませんよ。皆さん、大事なお客様なんですから。もしこれ以上、騒がれるのであれば、ほかのお客様にもご迷惑ですので、警察に相談いたしますが、どうされますか?」

友梨が警察を引き合いに出したことがとどめになったのか、クレーム客は商品を乱暴に鞄へとしまい込むと店を出て行ってしまった。