<前編のあらすじ>

仕事一筋で出世を目指してきた営業マンの祥吾は、国内最大手ホテルのリブランディングプロジェクトのリーダーに抜擢される。後輩の下田に厳しく指導しながら順調にプロジェクトを進めていた祥吾は、同期の堂本が推し活に時間を費やす姿を見て「時間の無駄」と冷ややかに感じていた。

しかし、体調不良で休職した下田がクライアントの担当者に状況を話したことから、パワハラ疑惑が浮上。クライアントから苦情が入り、事態は思わぬ方向に発展していく。

コンプライアンス室の副室長を交えた面談で、祥吾はプロジェクトから外されることを告げられる。反論する気力も失い、部長から「人の気持ちを無視する無神経なところがある」と指摘された祥吾は、自宅謹慎を命じられた。

●前編【「仕事放り出して時間のムダだろう」推し活を嘲笑った30代エリート男性がパワハラ疑惑で突然失った輝かしい未来

自宅謹慎で失った生きがい

プロジェクトは祥吾の1年後輩である林が引き継ぐことになり、祥吾は事実関係をはっきりさせるまでの間、自宅謹慎を命じられた。

出世し、成功することが一番の目標だった。だがそれはもう叶わない。自分自身が詰んだ状況にあることを理解していた。これまで努力を続けて順調に結果を残してきた祥吾はこの状況をどうやって打破していいのかが分からなかった。

仕事がなければやることがなかった。時間の潰し方すら分からない祥吾はぼんやりとスマホを眺めながら過ごした。

寝巻のままソファに横になり、一度も投稿したことのないSNSを開く。小銭をぴかぴかに磨く動画や犬がルンバを追いかける動画を見続ける。時間が過ぎ去るのを待っている。

画面をスワイプし、次から次へと際限なく流れてくる動画を見る。ふと4人組のバンドのライブ映像の切り抜きが画面に現れる。祥吾はスワイプする指を止めた。

縮こまった心を貫くようにまっすぐな歌声。こちらの意志を無視してでも沈んだ気持ちを掘り起こしてくるギター。全身にしみるように響くベース。骨の奥まで揺らすように響くドラム。

目も耳も、すべての感覚がスマホの小さい画面に映る4人に釘付けになっていた。