音楽が与えてくれた希望
祥吾はバンドの曲を聞きこんだ。曲だけではなく、出演しているラジオやトーク番組、YouTubeなどに至るまでありとあらゆるものをチェックした。
歌には彼らの思いが込められていた。苦しいことがあっても前を向いて生きろ。文字にすれば陳腐にすら思える単純なメッセージが、歌になり、音楽になることで、祥吾の魂を震わせた。
どうしてこんなに感動するのだろうか。
それを説明する言葉を祥吾は持たなかった。ライブがあることを知り、偶然まだ席が残っていたツアーの地方公演のチケットを買った。一度、あの音楽をこの生身に浴びてみたいと思った。
前日から泊りがけで出かけた。ホテルを取るのはたいてい出張だったから、プライベートで遠くに出かけるのは大学の卒業旅行以来、10年ぶりのことだった。
調べると、グッズを買うには朝から並ぶ必要があるらしく、朝食を摂ってすぐに会場へ向かった。たくさんあるグッズをとりあえず全種類ひとつずつ買って歩いていると、背後から声をかけられた。振り返ると自分と同世代らしき男の人だった。
「これ、落としましたよ」
男性は祥吾が購入していたアーティストのキーホルダーを拾ってくれていた。
「あ、ありがとうございます……」
祥吾はお礼を言ってキーホルダーをショッパーの中にしまう。
「ライブ楽しみですよね」
「え?」
よく見ると男性は祥吾がついさっき買ったライブTシャツを着ており、手首には以前のライブのものと思われるシリコンバンドがついていた。
「僕、前のツアーはチケット取れなくて。ずいぶん久しぶりなんですよ」
「そうなんですか。自分は初めてで……」
「初参戦かぁ、動画とかテレビで観るよりも生ははるかにいいですよ」
祥吾はライブが始まるまでの時間、近くのカフェで男性と時間を潰しながらお互いの好きな曲を話したり、ライブのコールを教えてもらったり、充実した時間を過ごした。
初対面の相手にここまで心を開き、話し込んだのは初めてだった。共通の好きなものがあるだけで、人はこんなにも繋がることができるのだと祥吾は初めて知った。
