音楽が生活の一部に

それから祥吾にとってアーティストの音楽を聴くことは生活の一部となった。あのコンサートで知り合った男性とはSNSで繋がり、一緒にライブを見に遠征をしに行こうという計画まで立てるようになった。

仕事にも復帰し、まだ周りの視線や態度に少し居心地の悪さを感じながらも、祥吾の気持ちは上向くようになった。

「お、珍しいな、お前がとんかつ食ってるなんて」

話しかけられた祥吾はイヤホンを外して顔を上げた。駅ビルに入っている定食屋で休憩を取っている最中だった。

「腹に溜まると昼の仕事に集中できなくなるからとか言って胃に優しいやつしか食ってなかっただろ」

「よく覚えてるな。まあ確かにそんなこと言ってたよ。でもあいにく前より暇でな。多少集中できなくても問題ないんだよ」

祥吾は冗談めかして笑った。堂本は意外そうな顔をする。

「そうだ、堂本。お前の好きな野球チームってスワローズだったよな。来月の試合、試合の後にライブイベントあるよな。チケット取ってもらえたりする?」

「え、なになに。どういうこと?」

堂本が祥吾の向かいの席に腰を下ろす。手をあげて祥吾と同じとんかつ定食を注文したあとで再び祥吾に向き直った。

「お前変わったな。なんか心境の変化とかあった?」

「いや、俺の推しがその試合のゲストなんだよ。始球式もやるんだと」

「え、ますますどういうこと? お前が推し? え? ええ?」

焦っている堂本に、祥吾は思わず笑みをこぼす。

推し活は誰かの成功体験に乗っかるだけのむなしい現実逃避だと思っていた。けれどそれは違った。現実を頑張り、生き抜くための原動力。それをもらえる尊い時間が、推し活なのだ。

「堂本、今まで悪かったな。野球、ルール教えてくれよ。んで、一緒にその試合見に行こうぜ」

「当たり前だろ。チケットは任せろ。ファンクラブ会員の力見せてやるよ」

祥吾はとんかつを頬張り、味噌汁を飲む。温かさがまっすぐに、祥吾の体へとしみていく。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。