<前編のあらすじ>
春佳は夫・俊介に息子・倫太郎の私立受験を提案するが、学費の高さや分不相応だと反対される。2人は激しく口論となり、その声で起きた倫太郎は泣き出してしまう。
夫婦関係はギクシャクし、2人きりになるとほとんど口を利かなくなってしまった。結婚5年で初めてのことで、どう仲直りすればいいか分からないまま2週間が経過する。
ある日、職場の後輩が「夫婦の日」にレストランを予約したと話すのを聞いた春佳は、仲直りのきっかけにしようと思いつく。今からレストランは無理でも、何かできるはずだと考え始めた。
●前編【「それでも父親?」息子の私立小受験を巡る夫婦ゲンカ…泣き出した息子の姿に妻が感じた後悔】
サプライズで仲直りを図る
春佳は仕事終わりに、とあるケーキ屋に立ち寄った。今の家に引っ越してきて以来、倫太郎の誕生日など何か節目のお祝い事をするときに使っていたケーキ屋は白とピンクを基調とした清潔感のある内装で、きれいに磨かれたショーケースの中にはたくさんの種類のケーキが並んでいる。
春佳はショーケースを眺めながら俊介が好きだったケーキを探して購入し、家に帰った。俊介はいつも通り残業なのかまだ帰っておらず、春佳は冷蔵庫でケーキを冷やして帰りを待つことにした。
8時を過ぎたころ、マンションの鍵が開く音がした。冷蔵庫を開けた俊介は一体どんな顔をするだろうか。きっと今日って何の日だったっけととぼけるだろう。そうしたら春佳は俊介に言うのだ。謝るのではない。倫太郎と、家族の未来について話そうと。
けれど、リビングにやってきた俊介を見て驚いたのは春佳のほうだった。なぜなら俊介の手には見覚えのある袋があったからだ。
「え、それって……」
俊介はばつが悪そうな顔で袋をこちらに渡してきた。
「いや今日が夫婦の日だって後輩が話してるのを聞いてさ。それで久しぶりにここのケーキでも買って帰ろうかなと思って」
俊介の説明を聞いて春佳は思わず吹き出してしまった。春佳の反応に俊介は戸惑う。
「え? な、なんで笑ってんの?」
「いやごめんごめん、まさかこんな一緒なことあるって思って……。私も今日ね同じところでケーキを買ってきたんだよ」
そう言いながらキッチンへ向かい、冷蔵庫からケーキの入った箱を取り出す。
「私も後輩が夫婦の日だって話をしてたからお祝いに買おうと思って同じ店に行ったの」
春佳の言葉を聞き、俊介は頭をかいて頬を緩ませた。
「な、何だよ。考えることは同じってことか」
「みたいね。どうやら入れ違いになっちゃったみたいだけど」
2人は揃って笑った。ここ2週間の気まずさなど忘れたように。呆れたように、幸せそうに。こうやって笑い合うのはとても久しぶりだった。
