俊介から切り出した謝罪
「この前のこと、ごめん。受験の話、ちゃんとした方がいいよな」
と切り出したのは俊介で、春佳は驚きのあまりすぐに返事をできなかった。
3人でケーキを食べ、食べきれなかった分は明日に取っておくことにし、倫太郎を寝かしつけたあとのことだった。俊介は冷蔵庫から缶ビールとコップをそれぞれ2つずつ取り出して食卓に置いた。
「でも反対なのは変わらずなんでしょ?」
春佳は訊ねながら、栓を開けた缶ビールをコップに注ぐ。
「まあ、そうだけど。……俺、今でも小中のときの地元の奴らと仲いいじゃん? 年末はよく集まってるし。でも私立だと地元の友達じゃないから、そういう繋がりを断つことになるんじゃないかなと思うんだ。ほら、大学のときにもいただろ? ずっと私立だった奴とかって成人式行っても知り合いが全然いない、みたいな。俺はそういうの、すごくさみしいんじゃないかなって思うんだ」
俊介が息継ぎをするようにビールを口に含む。春佳は黙ったままビールを飲み、そしてコップをそっと置いた。
「もちろん勉強だって大事だし、私立のほうが環境がいいっていうのも分かるよ。でも、そういうのと同じか、俺にとってはそれ以上に、地元の繋がりが重要に思えるんだよ。……育った町が、帰ってくる場所であってほしいっていうかさ」
俊介は気恥ずかしそうに言って、鼻の頭をかいた。
「でも、それって結局親の身勝手じゃない」
「は?」
俊介が顔を上げ、剣呑な表情を春佳へ向けた。けれどもう喧嘩はしまいと気持ちを抑えていることがうかがえた。春佳はすぐに言葉を継いだ。
「地元の繋がりを大事にするのも、勉強の環境にこだわるのも、どっちも親の身勝手。どっちも倫太郎のこと考えているようで、考えてないのかも」
「どういうこと?」
「3人でケーキ食べてるときに思ったの。ほら、倫太郎ってショートケーキ好きだったでしょ。そう思って買ってきたのに、今日食べたいって言ったのはミルクレープだった。私たちって倫太郎のこと分かってるようで、分かってないかもって思ったの」
春佳はひと息に言い終えた。俊介ははっとした表情になり、それからばつ悪そうに頭をかいた。
「……そうだな。確かに俺たち、倫太郎のことないがしろにして先走ってたのかも」
肩を落とす俊介に春佳は笑いかける。
「今度、倫太郎にも話をしてみよう。小学校の見学とか説明会とかもあるし。決めるのはそれからでも遅くないと思うの」
俊介は納得したように頷いた。ようやく2人の気持ちが合致して春佳は満足そうに笑った。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
