クレーマーが列に割り込み返品要求
友梨はコンビニで働いていたという通り、仕事の覚えが早かった。まだ働き始めて1週間ちょっとなので小枝子が後ろについてのレジ業務だったが、もうほとんど教えることはなかった。
「旭さん、あとはやっておくから休憩入っちゃってね」
「分かりました。お先にいただきます」
客の切れ目を狙って声をかけると、友梨は小さく頭を下げてバックヤードに下がっていく。小枝子はいつも通り、レジに並ぶお客さんたちの対応を続けていく。
「これ、返品」
次のお客さんから買い物かごを受け取った瞬間、出口のほうから小枝子の目の前に商品が投げ込まれた。
顔を上げれば、いつも通り随分とご立腹な表情で例のクレーム客が立っていた。
「……あの列に並んでもらっていいですか?」
小枝子は恐る恐る進言をするが、その客はあからさまに不快そうな顔をする。
「買うわけじゃないのになんて並ばないといけないのよ?」
「ですが並んでいる方もいますので……」
「いいからさっさと返品しなさいよ! あんたがこんなダラダラ喋ってるのが1番の迷惑なんだから! 言われたことをさっさとやれ!」
小枝子は恐怖と怒りを同時に覚えた。返品業務はただお金を返せば良いわけじゃない。レジのデータを最初から変更し、お金を返すという作業が必要なのだ。
「早くしなさいよ! なんでこんなことで私が時間を使わないといけないのよ⁉」