<前編のあらすじ>
修吾は会社で出会った絵里香と幸せな新婚生活を送っていた。唯一の気がかりと言えば義理の両親である。
義父はいずれは経営する金属加工会社を修吾に任せたいと言っている。気が重い。義母はと言えば何かと高額なものプレゼントしてくれるのだが、庶民的な金銭感覚を持つ修吾はいつも気が気ではなかった。
もちろん、善意であることは修吾もわかっている。しかし……。
前編:マッサージチェアに高級家電をプレゼント…新婚夫が疲弊する、義実家から押し付けられる「善意」
ありがたい話のはずが、なぜか息苦しい
「新婚旅行先、まだ決めてないの?」
義母の声は明るくて柔らかいが、耳に響くその調子に、最近の修吾は無意識に身構えてしまう。
「ええ、まあ。僕の仕事も落ち着かないので、もう少し先になるかと」
電話の向こうの義母は「あらまあ」と嘆息し、続けて「絵里香もかわいそうに」と続けた。何でも義母は、既に海外旅行のパンフレットを数種類も取り寄せているらしく、さらに話は子ども、車の買い替え、そして「そろそろマイホームも」と続いていく。
ありがたい話のはずなのに、どこか息苦しい。義母の優しさの中に、知らず知らずのうちにコントロールされているような妙な居心地の悪さがあった。
「あのさ、すごくありがたいんだけどさ」
電話を切ったあと、ぼそっとつぶやくと、絵里香が振り返る。
「何が?」
「うーん……全部、先に決まっていく感じがしてさ。俺たちで決める余地ってあるのかなって」
「そんなの、うちの親なりに考えてくれてるってだけでしょ。善意だよ? 修吾、最近ちょっと神経質になってない?」
それからしばらくして、修吾の生活は少しずつ、でも確実に軋み始めた。
まず営業の数字が伸びない。焦りが空回りして、顧客への対応が雑になったのか、ある大口のクライアントからクレームが入った。確認も甘く、同僚にも迷惑をかけてしまった。
「お前、どういうつもりだ。新婚ボケか? 社会人として自覚あるのか?」
上司の叱責が重くのしかかる。言い訳の余地はなく、謝ることしかできない。
「……申し訳ございません」
家に帰ると、絵里香はいつものように夕食を用意してくれていた。
味噌汁の湯気が、やけに遠く感じる。絵里香の話に時折頷くだけで会話が続かない。
次第に、修吾は口数を減らし、テレビの音だけがリビングに流れる時間が増えていった。絵里香も、ただ静かにこちらを見つめる時間が増えた。
心配しているのは伝わってくる。でもその視線すら、負担に感じるようになっていた。
「どうしちゃったんだろうな、俺」
呟いた独り言は、薄暗いリビングに吸い込まれていった。