生活を見直してみると

「このソファ、売ろうか。ちょっと大きすぎるし、座り心地もいまいちだったよね」

絵里香がそう言って、リビングの真ん中に鎮座するグレーの3人掛けソファに目をやる。義父母が「新居祝いに」と持ち込んだもので、たしかに高級品ではあるけれど、部屋の雰囲気には少し重たすぎた。

「うん。俺も正直、体が沈みすぎて腰にくるなーって思ってたんだ」

そう笑って返すと、絵里香も肩の力が抜けたように「じゃあ決まり」と声を弾ませた。

あの日の会話から、もう2週間が過ぎた。

修吾たちは少しずつ、自分たちの生活を見直し始めた。義父母には、感謝の気持ちとともに、今後の援助を丁寧に辞退した。義実家を訪問して「これも2人で決めたことなんです」と伝えると、義父はやや渋い顔をしながらも、最後にはうなずいてくれた。

「何かあったら、いつでも言ってちょうだいね」

そう言って見送ってくれた義母の声には、寂しさが滲んでいて少し申し訳なく思ったが、それでも後悔はない。

仕事も少しずつではあるが、上り調子になってきた。ミスした案件も、なんとかフォローが間に合い、大きなトラブルにならずに済んだ。最近は、あまり根を詰め過ぎず、余裕を持って仕事に臨むことにしている。

そのおかげかは分からないが、早く帰宅できる日が増えた。

「なんか、前よりごはんが美味しく感じるんだよな」

「それって褒めてる? それとも、今までがひどかったってこと?」

「あ、いやいや、違うって。今までも美味しかったけど、今の方が家の居心地が良くて美味しく感じる気がして」

「……ふうん、まあそういうことにしといてあげる」

慌てて首を横に振る修吾を見て、絵里香がにやりと笑ってみせた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。