<前編のあらすじ>

玲子は貧しい家系の出身ながら、苦学し、努力を重ねた末にとある外資系企業のシニアマネージャーの座を手にした。部下からも慕われており、仕事ぶりは完璧そのもの。しかし、生活は火の車だった。

玲子は求めるものをすべて手に入れることを仕事の原動力としていたからだ。当然月収だけでは足りず、クレジットカードのキャッシングに手を出してしまう。だが月々の支払いは徐々に玲子の生活をむしばんでいった。

前編:タワマン家賃と浪費でクレカ請求100万超え…ハイスペ女性を襲った華やかな生活の裏にある厳しすぎる現実

タクシー通勤、外食をやめて節約生活に突入

玲子は額に汗を浮かべながら、大きなオフィスビル群が見下ろす交差点を渡っていく。ヒールの音がアスファルトに乾いた音を立てる。

自宅のタワマンからオフィスまでは徒歩ならば約25分。以前ならタクシーを使っていた距離だが、今はそうもいかない。

「たまには歩くのも、悪くないわよね。健康にもいいし」

そう自分に言い聞かせながら、キャッシング枠に初めて手を出した日の夜を思い出す。

ATMに表示された「借入可能額」という文字をタップしたとき、ほんの少し指が震えた。だけどそれさえ乗り越えてしまえば、後は簡単だった。まるでプライドと引き換えにお金という安心を与えてくれる装置のようで、なんとも皮肉だった。

「あれ、白川さん、メイク変えました?」

「ちょっとね」

出社した玲子にいの一番に声をかけてきた女子社員に、玲子はあいまいに微笑む。
迫りくる支払日とそれに向けた節約生活がもたらすストレスのために、玲子は最近うまく眠れていなかった。

いつの間にか目の下にはくまが刻まれ、そう思って自分の顔をまじまじと見ると目元の小じわやほうれい線やらが気になりだし、結局化粧はいつもよりも濃くなった。

昼休みはオフィス近くのレストランには行かず、地下のコンビニで298円のパスタサラダを買った。

「今、ダイエット中だから」

ちょうど鉢合わせた部下の手前、そう言って誤魔化したが、もちろんただの節約だ。以前は2000円のランチが当たり前だった玲子が、今はコンビニのイートインで空調の音を聞きながら食事をしている。

こんなにも惨めな気分は子供の頃以来だ。

結局、うまくのどを通らなかったパスタサラダは半分以上残すことになった。

夜、リビングは静まり返っていた。煌めく夜景がそこにあるのに、玲子はその光をまっすぐ見られない。ソファに腰を下ろし、クッションを抱えた。

「……引っ越し、しようかな」

ぽつりと口に出してみた。でも、答えはすぐに出た。

無理だと。

引っ越しには礼金、敷金、引っ越し代、諸々の費用がかかる。それに、この部屋を引き払うということは、今まで積み上げてきた「理想の自分」を自ら壊すことになる。

「はあ……」

もう何度目か分からないため息が無意識に口からこぼれた。