心機一転、生活を立て直すことに
「このスーツの買取相場は……5000円?」
スマホの画面に表示された金額に、玲子は思わず苦笑いした。
かつて30万円以上で購入した高級ブランドのスーツ。ラグジュアリーを象徴するアイテムのはずだったが、今はただのリサイクル品に過ぎない。
それでもよかった。玲子は決めたのだ。この暮らしを、自分の足で立て直すと。
「これも要らないかなあ……」
荷物を少しずつまとめる作業は、心の整理とよく似ていた。
ブランドバッグ、高級な食器、使われなくなったサブスク用のデバイス。どれも「理想の自分」を演出するための小道具だった。
引っ越し先は、都内の住宅地にあるごく平凡なマンション。タワマンほどの景観はないが、緑が多く、陽当たりのいい静かな場所だ。内見のとき、ふと感じたのは肩の力が抜ける感覚だった。
ここで、ちゃんと暮らしていこうと思えたのは、玲子にとって大きな1歩だった。
引っ越しの数日後、玲子はキッチンでお米を研いでいた。
炊飯器が「ピッ」と音を鳴らす。
外食とフードデリバリー三昧だったタワマンのときには考えられなかった風景だが、今はそれが心地よかった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。