朝の光が差し込むダイニングで、美代子は湯気の立つコーヒーを片手にスマートフォンを覗き込む。

「七五三 衣装 レンタル 男の子 3歳」

検索履歴には、似たような言葉がずらりと並ぶ。紺か深緑か、袴は無地か模様入りか――画面をスクロールするたび、頭の中に息子・颯太の顔が浮かんでくる。

七五三に向け入念な準備を進める美代子

「せっかくだし、ちゃんと華やかにしてあげたいよね」

独り言というより、自分への確認だった。

写真館の撮影プランは、高いものだと10万円近くかかる。それでも、美代子は惜しいとは思わなかった。むしろ、ここまで無事に育ってくれたことに感謝を込めて、お金をかけてでも盛大に祝いたい。それが今の正直な気持ちだ。

普段から何かと体調を崩しがちな颯太。発熱や咳で予定が流れるたび、行事ごとはつい後回しになってきた。今朝も、まだ風邪の名残があるようで、ブロックを組み立てながら時折短く咳き込んでいる。

とはいえ本人は平気そうに、「ママ、見てー!」と笑っている。

「ほんとだ、すごいね」

そう声をかけながら、心のどこかでこの穏やかな日が続くことを願う。

育児休業のあとも、フルタイム勤務に戻る選択肢は自然と消えた。呼び出しや通院にすぐ対応できるようにと、部署を異動し、在宅中心の仕事に切り替えたのだ。やりがいのあった仕事を手放すときの迷いはあったが、目の前でブロックを積み上げる小さな背中を見ていると、3年前の選択に後悔はないと思える。

だからこそ、今回の七五三は特別なのだ。入念に準備をして、きちんと形に残してやりたい。神社への祈祷も、写真も、衣装も。全て完璧に揃えて、何としても思い出に残るイベントにするつもりだった。