夫へ七五三プランを伝えるが…

その夜、夫の敦也が仕事から帰宅したのは午後9時を回っていた。

ネクタイを緩め、スーツの上着を椅子にかけると、美代子のいるキッチンに、やや疲れた顔を覗かせる。残業や出張が当たり前の職場のため、家を空けがちな敦也。平日は颯太が寝入ってから帰宅するのが常だった。

「おかえり。今、七五三のことで調べてたんだけどさ」

声をかけながら、美代子はテーブルにスマートフォンを置く。そこには、撮影スタジオの料金表と、衣装レンタル付きプランの比較サイトが開かれていた。

「衣装、レンタルにするのがやっぱり便利そうで。で、祈祷も写真も全部セットにできるプランがあって……ちょっと高いけど、しっかりした内容だったよ。これ、どう思う?」

敦也はスマホの画面に視線を落とすと、ソファに腰を下ろしながら言った。

「うーん、普通でいいんじゃない? そこまでお金かけることかな」

その一言に、美代子の胸に微かな痛みが走る。もちろん彼は悪気があって言っているわけではない。

いつもの調子だ。

「でも……今回はちゃんとやりたいの。せっかくだから、少し奮発してもいいって思ってる」

言葉にしてみると、ますますその気持ちがはっきりしてくる。

だが、敦也は黙って首を傾げただけだった。

行事に熱心でない彼と、準備に力を入れたい自分。その温度差が、残酷なほどくっきりと感じられた夜だった。