狭い業界がゆえに起きた悲劇

最初の退職から数カ月後、田原氏は別の中古車販売会社に転職したという。

しかし、経験者であり即戦力だと面接で豪語した彼は、自身を大きく見せるあまり無茶な営業を繰り返していた。気付いた頃には、絶対に期日までに納品できないであろう案件を2件も抱えてしまう。

本来なら速やかに取引先に謝罪をすべき状況だろう。以前と異なり上司と板挟みになっているわけでもなく、自分の裁量で進めている案件だ。難しいことではない。だが彼が取った行動は全く違うものだった。

その選択とは、以前利用した退職代行会社に連絡し、退職するというものだった。

これが本当の意味での終わりの始まりとなる。

今回も前回同様、一見平穏に退職ができたように見えた。しかし、退職してから数カ月経過したころに変化が訪れる。

なんと、1通の内容証明が田原氏のもとに届いたのだ。

全く身に覚えがないと不審に思いながらロクに送り主の名前も見ずに開封。それは直近で退職代行を利用して辞めた2社からの、連名での損害賠償請求だった。その額は驚くことに軽く1000万円を超えていた。

私もその書類の現物を見たとき驚いたのだが、20代の若者が見たら目玉の飛び出るような金額だ。田原氏も「自分では何年かかっても払えない額です」と焦っていた。

中古車業界は比較的狭い業界だ。会社の悪評だけでなく従業員の悪評も業界内外にすぐに広まる。狭いがゆえに思わぬところで繋がりができたりもするものなのだ。

田原氏が直近退職代行を用いて退職した会社2社も例外ではない。代表同士がたまたま業界の飲み会で意気投合し、繋がってしまったようだ。そこから両社は共同で田原氏に対し、損害賠償請求をするに至ったのだ。

彼は「恐怖と驚きでその場で嘔吐してしまい、数日寝込んでしまいました」と私に当時の状況を語ってくれた。

それもそうだろう。退職代行はどこの業者も「安心安全で絶対にあと腐れなく辞められる」と錯覚してしまうような謳い文句が掲げられている。まさか過去の勤務先が今更になって繋がり、損害賠償が来ることなど、彼は思いもしなかったのだろう。

●突然の1000万円請求に戸惑う田原氏。果たしてその後の展開は? 後編【「安易な利用がもたらす不幸」退職代行の限界を知らなかった20代男性、専門家から告げられた“無情な現実”】で詳説します。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。