2人だけでの夕食が終わり、恵実は洗い物を終わらせると克寿にビールを出した。

「ああ、ありがとう」

そう言ってビールに口をつける克寿は、もみあげのあたりに白髪が目立つようになってきた。そろそろ白髪染めに行かせないと恵実はぼんやりと考えていた。

穏やかな日常を過ごす2人

結婚して25年を迎えたことに驚きはない。克寿と初めてデートをしたときに恵実は好き勝手にくだらない話をし続けた。そんな恵実の話に嫌そうな素振りを見せず克寿は聞き続けてくれた。その瞬間に恵実はこの人と結婚するのだろうなと思った。それからもう25年が経つ。恵実は52歳になり、克寿は55歳になった。

出会ったころのように恵実が話し続けるようなことはなくなったが、それでも居心地の良さは変わっていない。

克寿はじっとテレビのニュースを見ていた。テレビでは食料品や光熱費の値上げの話題を扱っていた。そのニュースを見ながら克寿は鼻から大きく息を吐き出す。

「また値上がりをするようだな……」

「最近、いつもこんなニュースばっかりしてるわよね。もうちょっと明るいニュースはないのかしら」

恵実はうんざりしながらテレビを見る。

克寿は役所に勤める地方公務員で給料は安定しているし、恵実もスーパーでレジの仕事をパートでしているため収入は安定している。現在住んでいるこの家も息子の明彦が生まれたタイミングで購入していたものだが、残りのローンも頭を抱えるほどのものではない。

ただ、これからを生きる明彦のことを考えると、心配せずにはいられなかった。

「そういえば明彦が来週には帰ってくるって」

「……そうか。もうそんな時期か」

大学を卒業して他県に就職した明彦は家を出て1人暮らしをしていた。

克寿の険しかった表情が明らかに緩んでいた。声には出してないがやはり久しぶりにひとり息子が帰ってくるというのは嬉しいらしい。

そんな克寿の反応を見て恵実は笑顔がこぼれる。

「あの子の好きなパスタを作ってあげないとね」

恵実の言葉に克寿は黙ってうなずいた。